第3話

「もうイヤだ!俺会社辞めて引きこもる」

 「……世の中の独身男性に、その決断は大いに喜ばれるだろうが、会社としては営業部のエースを失うのは大損失だから、絶対止められるぞ。諦めろ」



 男性社員……だろうか?


 ロッカールームの向こうにあるのは屋上に続く非常階段だ。


 普段ほとんど使われることのないその場所に、人がいることを不思議に思い、私は階段に続く扉にそっと近づいた。


 声が漏れていたのは、内緒話とは程遠い声量だったことと、扉が開いていたせいだと分かった。


 声の持ち主は……。



 「とにかく、いつも通り相手も諦めてくれたみたいだし?きっぱり断れてよかったじゃん」

 「確かに、お前の言う通り、キッパリ冷たく言い放てば相手があっさり引いてくれるようになったのはありがたいと思ってるよ。けどな?お前は知ってるだろうが、胸が痛いんだよ。目の前で泣かれたら、俺って鬼か悪魔か人でなしかって位に落ち込むし、自分は何様だって凹むの。キツいのマジで」



 ガックリと肩を落とし、泣き言を溢すのは、今しがた噂になっていた春織はるおり優斗ゆうとその人だった。


 意外だ。

 てっきり春織という人物は、女性を振るのになんの痛みも感じていないのだと思っていた。


 付き合う気はないとキッパリと、冷たささえ感じるその言い方に、傷つく女性社員もいれば、そのクールさが素敵!と更に隠れファンとして彼を見守る形の女性社員もいる。


 営業先のお客さんに見せる笑顔と、女性をこっ酷く振る冷たい表情。どちらが本当の春織なのか、常々疑問に思っていたが。


 なんだ、やっぱり春織は入社当時、私が感じたあのまま変わっていないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る