第2話

何故か昔からこうだ。


 年下どころか、年上の人にまで敬語を使われてしまう。


 人付き合いは正直上手くない。自ら歩み寄るという行動を全くして来なかったのは認める。


 普段からぽやんとして何も考えずに1人でいることが多く、それに気づいて周囲を見渡すと既にあちこちで輪ができていて、そうなると自分からその輪に入っていくことができない。


 その結果が現在なのだが、学生時代はそれでも良かった。話す切っ掛けさえできればそこそこの人付き合いはできていた。


 しかし社会に出て迄、そんな自分を甘やかす行動は許されない。


 そう思ってなけなしの勇気を振り絞って近付いても。



 「表情が乏しくて、何を考えているか分からない」

 「名前からして冷たい印象を与える」


 

 そんなふうに自分のことを周りが話しているのを、新入社員時代に聞かされてからは、さらにコミュニケーションを取ることが苦手になってしまった。


 笑顔一つ上手く作れない私が、会社の花形部署に入れるわけもなく。


 まぁ、総務の裏方的仕事も自分には合っていると分かってからは、人付き合いはほどほどに、仕事だけはと黙々とこなしてきた結果、『愛想はないが、仕事はできる中堅どころ』という肩書きもどきがついていた。


 去っていく彼女たちの背中を見送り、パソコンを立ち上げる。


 共有ファイルをクリックして、先ずは自分宛のフォルダを開いて仕事の確認をする。


 締め切りに余裕があれば、共有ファイルの中の担当者なしフォルダ内の至急ファイルをチェックした。


 こうして仕分けすることで、仕事の優先順位を見やすくしたファイル整理を実際に始めたのは1年前。


 開始当初は多少の問題もあったけれど、徐々にみんなも使い慣れてきたのか、今年に入ってからは仕事の流れも順調で、総務部に依頼した仕事が円滑に運んでいると、営業や他の部署、さらに社長からも褒めていただいたと部長が喜んでいた。


 コーヒー入れてから、営業部の依頼片付けよう。


 パソコンにロックをかけるのを忘れずに、席を立って給湯室に向かう途中で忘れ物に気付いてロッカールームに向かう。


 

 「?」



 何か聞こえた気がして、足を止めた。

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