第6話

「ただ見ているだけじゃ、相手の気持ちも……肌の温度すら分からないままじゃないの」



後半声を潜めた弥生を見て、流石の彼女にも羞恥心ってものがあったんだと周囲を見回して、気づかれていないことでホッとした。


片想いするのが、精一杯でそんな生々しい妄想なんてしたことない。



「……出来るわけ無いよ。

相手に彼女がいた時点でそんなこと考えるの、なんだか好きな相手すら貶めているみたいで」



「朱乃みたいに、綺麗ごとだけじゃ欲しいものは手に入らないわ」



弥生の言葉が重く響いた。


彼女が今付き合っている人は、妻子ある男性。


しかも、うちの病院の医師だ。


彼女の、彼女なりの一途な想いを否定したくは無い。だけどやっぱり不倫は賛成できないよ。


自分も、相手の奥さんや子供迄裏切って傷つけて……そんな関係苦しいだけじゃない。


それを綺麗ごとと言われるなら、私はそれでいい。

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