第11話
「あ、」
思わず声に出してしまい、慌てて口を塞ぐ。
「なに?」
眉をしかめ、問うてきた相手に首をふって「なんでもない」と答えた。
でも実はなんでもなくない。
びしょ濡れの顔や、ソライという呼び名だけでは分からなかった。
彼は隣のクラスの男子で、私達2年の女子の一部にかなり人気の高い男子だった。
確か、空井と書くはず。
普段、サラサラと風に揺れる栗色の髪は拭いた直後でボサボサになっていて、ぱちっとした黒目の大きい猫みたいな双眸は、不機嫌に歪められているけれど。
間違いなく、あの空井くんだ。
なんて相手に水をぶっかけてしまったのか。
さっきよりもさらに不安になった。
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