第5話


 「六花さん、今日のランチ付き合ってもらえませんか?」


 隣の席のモカちゃんが何やら神妙な顔でランチに誘ってきたから、ちょっと身構えてしまった。


 可愛いモカちゃんの頼みであったとしても、こんな表情をした彼女を見たらなんとなく面倒な相談のような気がしたからだ。


 「……いいけど、なにかあったの?」


 「ここではちょっと。この前岬さんが教えてくれたエビフライが美味しいお店があったでしょ?あそこに行きません?」


 「エビフライ……うん。行く」 


 頭の中でエビフライと面倒そうな相談を天秤にかけて、勢いよく傾いたのはエビフライの方にだ。


 だって、今朝寝坊して朝ごはん食べ損ねて、さっきからお腹なりっぱなしだったんだもん。


 エビフライと呟いて即答した私にモカちゃんは気が抜けたような顔をして、それからクスッと笑った。


 悩んでいても、こんな風に笑っていても、可愛い子は可愛いなー。


 そして待ちに待ったランチタイムに私とモカちゃんは会社から徒徒歩十分の場所にあるお店へと向かった。


 中に入ると、見知った顔が一人。


 「え、なんで岬が?偶然なの?」


 カウンター席に、私が絶対頼もうと思っていたエビフライ定食の、見事な大きさのエビフライを、今まさに口に運ばんとする岬の姿があった。


 「……元々俺の行きつけの店をお前らに教えたんだから、俺がいるのになんの不思議もないだろう」


 エビフライを咀嚼しきってから、岬はゆっくり口を開く。


 そう言われればそうだった。


 「六花さん、そこのテーブル席に座りましょう」


 モカちゃんに促されるままカウンター席のすぐ側のテーブル席に彼女と向かい合う形で座った。


 昼休憩の時間は決まっているから、私達はまずは注文をしてから食事が来るまでの間で、モカちゃんの話を聞く事にした。


 ちょっと気になるのが、岬との距離。これだと彼にまで話が聞こえてしまわないかなって思った。


 でも、当のモカちゃんは岬の存在は気にしない感じで話を切り出した。 


 「単刀直入に伺いますけど……」


 大事な同僚の真剣そうな表情に、私も自然と背筋を伸ばして唇をキュッと引き締めた。

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