裏話 女の闘い② 舞依vs萌花


side三人称視点



裕哉が一人で遊びに夢中になっている頃、舞依と萌花は庭から少し離れた人影のない場所で向かい合っていた。その様子は、普段三人で仲良くしているはずなのに、お世辞にも「仲が良い」とは言えなかった。二人は真剣な表情を浮かべ、普段裕哉に見せているような顔からは想像できないほどの緊張感が漂っていた。


「私が何を言いたいのか、わかってるよね、萌花ちゃん?」


舞依が責めるような声色で問いかける。


「えっと・・・トイレはあっちだよ?」


「そうそうトイレは……って!違うよ!ひろ君のことだよっ!」


「――ちょ、ちょっと!冗談だってば!」


萌花のボケに舞依がツッコミを入れる。


萌花は「だめだったか―」と内心思いながら、自身の肩を揺さぶる舞依を宥めた。


「なんで!! さっきはあんなことをしたの?!」


舞依の声には怒りが滲んでいた。


「・・・だって」


あんなこと、とは先ほど密室内で行われた萌花と裕哉のハネムーンのことだろう。確かに、既に両想いの恋人同士である裕哉が、別の女の子とあんなことをしていたら文句を言いたくなるのも当然だった。


舞依は「お前、ひろ君が私に告白してそれからキスしたことを後ろから見てたよな?それわかっててやったんだよな?あ?」と言外に問い詰める。


「――も、もとはと言えば舞依ちゃんが悪いんだよ!」


「はぁー?何で舞依が悪いのー?」


突然の萌花の逆切れに舞依がジト目を向ける。

どっちが悪いなんて、100対0で萌花に決まっているじゃん。


「だって!私がひろ君のこと好きなのを知っているくせに、見せつけるようにあんなエッチなことをするからっ!」


「え、エッチ!?じゃないし別に!!・・・それに!勝手に盗み見たのは萌花ちゃんの方でしょ!犯罪だよ!」


「あんな場所で舌を絡め合っておいて何言ってんの!!」


「萌花ちゃんが朝勝手に付いてくるのが悪いんじゃん!」


「誰も舞依ちゃんに付いて行ってないし!それにひろ君に聞いたらいいよって言ってくれたもん!」


「そんなの断れるわけないでしょ!ストーカーにそんなこと言われて断ったら酷いことになるって誰でも思うじゃん!」


「萌花はそんなことしない!」


互いに息を荒げながら、一歩も引かずに主張し合う舞依と萌花。とても小学生が出してよい雰囲気ではなかった。


「・・・・」


「・・・・」


「とにかく!私とひろ君は両想いで恋人同士になったの。そこにさっきみたいに割り込んで来ないで」


「割り込んでない。ひろ君も萌花のことが好きだって」


「・・・・・・言ってないよね?」


「・・・・」


舞依の問いに言葉が詰まる萌花。確かに「好き」とは言われてないかもしれない……けど。


「キ、キスしてくれたし」


「・・・・」


問題はそこだろう。

いくら舞依が萌花のことを否定しようとも、萌花と裕哉がキスをした事実には変わりがなかった。舞依自身、幸せそうにキスをする裕哉と萌花の姿を、痛む胸を押さえながらしっかりと見ていたのだから。


…はぁ、なんでこんなことになったんだろう。


舞依は内心ため息をつく。

本来なら、晴れて恋人同士になった舞依と裕哉の二人で仲良く幸せに過ごすはずだった。確かに萌花ちゃんの気持ちは理解していたけど、でも、ひろ君が私のことを好きなのは知っているはずだから、それを尊重してくれると思っていた。私も別に萌花ちゃんとひろ君が仲良くすることに関しては少し嫌だけど、拒絶するつもりはなかったのに。


…想いの強さを見誤っていた。


裕哉が萌花を受け入れたことで、それは叶わぬ願いとなった。

ここで「ひろ君の浮気者!」と言うことも考えた。客観的に見て間違ってないと思うし。でも……でも、私はひろ君のことが好き。


何言ってるの?と思うかもしれないけど、ひろ君の優しさに私は惚れたから。

そして・・・・・・それは萌花ちゃんも一緒。


…はぁ、しょうがないなぁ。


「・・・わかったよ、萌花ちゃん。萌花ちゃんがひろ君のことが好きなのはわかった。そして、ひろ君も萌花ちゃんのことを少しは好きかもしれないってことも」


「え?う、うん…」


突然の舞依の言葉に、萌花は動揺する。

一体何が起こるんだ…?!と、萌花は警戒した。


「・・・でも!ひろ君のことが一番好きなのは私!そして、ひろ君は女子の中で私のことが一番好き!」


「・・!!・・・」


萌花は「一番の座は渡さない」と言おうとした口を何とか押さえ込む。

前者はともかく後者は…ひろ君のことがずっと好きだった萌花にはわかっていたことだから。悔しいけど。


「・・・一番の座は渡さない。誰にも」


舞依が威圧するように萌花を睨みつける。


「だけど…萌花ちゃんのことは認めてあげてもいい。嫌だけど!」


「舞依ちゃん…」


「本当は嫌だけど!!!!!」



そんな舞依の言葉に、萌花は嬉しそうに笑う。


何だかんだ言って、舞依と萌花の仲は悪くなかった。ただ、裕哉に関することになるとお互いバチバチになってしまうだけで。


そしてたった今、舞依がしぶしぶ萌花を認めた。


今まではお互いのことをライバルと思っていただろう二人。そんな二人が――特に舞依が――嫌そうな顔をしつつも手を取り合う。


なんて素晴らしい友情だろうか。



「――そろそろ戻ろっか、萌花ちゃん」


「そうだね、舞依ちゃん」



――どのくらいの女性が舞依と同じ判断を下すことができるだろうか。舞依はなんて強い子なんだ。



二人並んで裕哉の元へと足を進める。そこには、行きとは違って穏やかな空気が広がっていた。


そしてもうすぐ、といったところで、萌花が歩みを止める。


「舞依ちゃん!」


「どうしたの?萌花ちゃん?」


急な萌花の声に、舞依が振り返る。


「舞依ちゃん…ありがとう、私を認めてくれて!」


「萌花ちゃん…」


萌花の表情に舞依は何も言えなかった。

一歩違えば逆の立場の可能性があったのだから。


だけど、萌花とこれからは上手くやっていけそうだと、舞依は少しだけ前向きに思うことができた。


しかし、


「――でも!!!」


萌花が一呼吸を置いてから、自身の決意を声に出す。まるで…生涯の恋敵に宣戦布告をするかのように。


「――でも!!萌花は!ひろ君の一番を諦めるつもりないからぁぁああああ!!!」


舞依の声を無視して、萌花が駆け出す。


びっくりして反応が遅れた舞依は、遅れて追いかける。


二人が角を曲がった先には、二人の戻りを待っていた手持ち無沙汰な裕哉がいた。


「ひろ君ー!!!」


萌花の大きな声が響く。


「お、やっと戻ってきた!・・・・って、どうしたの萌花?」


勢いよくこちらに向かってくる萌花。

裕哉の目の前で静止した萌花は、力強い視線を向けた。



「萌花はひろ君のことが一番好きなの!舞依ちゃんよりも!」


「ちょ、ちょっと待って!さっきの話の流れを全部ぶち壊すつもり!?」


追いついた舞依が動揺しながらツッコミを入れる。

さっきまではライバルとしてやっていこうって話じゃなかったっけ?!


「・・・・ボソボソ・・・・ど、どういうつもり?!萌花ちゃん!」


「・・・ボソボソ・・・別に!ただ萌花は舞依ちゃんよりもひろ君への想いは強いって言いたかっただけ!」


「・・・・ボソボソ・・・・だ・か・ら!それは舞依の方が上に決まってるでしょ?!こっちは両想いで、そっちは萌花ちゃんの未練がましいストーカー気質の片思いなんだから!」


「・・・・ボソボソ・・・・はぁ?舞依ちゃんはたまたま萌花よりも早くひろ君と出会えただけよ!何言ってんの? それに萌花の方がひろ君を満足してあげられるし!」


「・・・・ボソボソ・・・・はー?そっちこそ何言ってんの?ひろ君は舞依の脚大好きなんだけど?萌花ちゃんなんて視界にも入ってないから!」


顔を寄せ合いブツブツと言い合う2人。

話しかけられたはずの裕哉は、完全に蚊帳の外だった。


裕哉のことを巡って争う女の子たち。


声が小さくてよく聞こえないが・・・・2人っていつの間にこんなに仲良くなってたんだ?


裕哉はそう不思議に思いながら・・・・内心、萌花とのことが舞依にばれたのか?!と抱いていた焦りの感情が霧散した。



――このまま・・・バレずになあなあになってくれればいいな・・・・


裕哉はクズだった。








★★★

あとがき


女は浮気した男ではなく浮気相手の女に怒るらしい。これ豆ね。


あのさぁ・・・裕哉君・・・(くそでか溜息)



読了感謝です!

もしよければ☆☆☆をくれたら作者が喜びます!

また、コメント等もモチベーションが上がります!


今後ともよろしくお願いします!

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