閑話 side萌花 萌花が惚れた日
side萌花
萌花とひろ君の出会いは、地域の子供たちが集まる子供会だった。
萌花には上に兄がいて、子供会では常に彼にくっついて行動していた。周りの子たちが同学年や知り合いと遊ぶ中、萌花は誘われても断り兄と一緒にいるのが当たり前だった。これは特別に兄が好きだったからではなく、ただの人見知りが理由だった。相手と顔を合わせても話題が浮かばず、もし話しかけられても萌花の反応が悪いせいか相手はすぐに別のところへ行ってしまうことが多かった。そんな経験から次第に、わざわざ嫌な思いをするのもな・・・と思うようになり、兄に頼ることが習慣になった。
しかし、兄が小学校を卒業すると事態は変わった。兄は学校と一緒に子供会も卒業してしまったため、萌花は一人で参加しなければならなくなった。その瞬間、友達を作らなかったことを初めて後悔した。既に女子たちのグループはすでにしっかり形成されていて、そこに萌花が入る余地はなかった。
周りからの視線を感じながら隅に座り、早く終わらないかなぁと思う日々が続いた。何度も自分に言い聞かせたが、やはりちょっと寂しかった。
学年が上がるにつれ状況はさらに悪化した。女子たちは放課後にいつものメンバーで仲良く遊ぶことが増えて、一人の萌花を見た下の学年の子たちからもボッチと扱われ、いつの間にか萌花は一人でいる子だと定着してしまっていた。
結局、萌花は子供会を休むことが多くなった。友達がいない自分にどんどん自信を失っていった。
そんなある日、親同伴の子供会が開かれることになった。普段は子供たちだけで過ごせる場所だったが、この日は特別だった。親たちも参加するイベントでは、萌花だけ家に残るわけにもいかず、大きな催しになることは予想できた。
嫌だな・・・と不安になりながらもどうしようもなく、萌花は会場に向かった。
着いてしばらくして、賑やかに会話する人たちの中で一人ぽつんと俯く。
言葉にできない焦りと浮かび上がる涙を堪えるので精一杯だった。
――そんな時。
見たことのあるけれど話したことがない同い年の男の子が声をかけてきた。
「どうしたの?えっと、萌花?で合ってる?」
その男の子――ひろ君は、戸惑う萌花の前に優しく現れた。
驚いて返事ができなかったが、ひろ君はにこやかに続けた。
「そろそろ始まるけど、向こう行かないの?」
うつむいたままの萌花は、他人、しかも男の子に話す勇気がなかった。周囲には人が増え、遠くからひそひそと話しているのも感じ取れた。もう耐えられない、帰ろう。立ち上がり外へ向かう萌花の腕をひろ君が掴んだ。
急なことに困惑する萌花。しかしひろ君は、萌花の様子から事情を察したのか、少し照れた表情を浮かべながら「俺と一緒に行こう?」と囁いた。
その言葉に、萌花は藁にも縋る思いで頷いた。
ひろ君は地域でも人気者だった。男子とも女子とも仲が良くて、まさにみんなの中心にいる存在だった。
萌花がひろ君と一緒に皆の所へ行くと少し騒がしくなったのがわかった。
・・・そりゃそうだよね。ひろ君が萌花なんかと一緒にいるんだもん。
また心がヅキンとした。
だけど・・・・だけどひろ君は、そんな周りの雰囲気に気にする素振りも見せず、自然に萌花を連れ出してみんなと話せるように話題を振ったりして助けてくれた。
その日、萌花は初めて子供会って楽しいと思えるようになった。
ひろ君との出会いが、萌花にとって・・・・・・。
いつの間にか、萌花はひろ君に視線を向けるようになっていた。
ひろ君を見ると胸が温かくなる。幸せな気分になった。
だけど、ひろ君が他の女の子と楽しそうに話している姿を見ると、なぜか胸が締め付けられた。よくわからなかったけど、萌花以外とはあんまり話してほしくないと思った。
それでも・・・・・・ひろ君の邪魔しようとは思わなかった。
少し苦しい気持ちになるけど、だけど、萌花はみんなに分け隔てなく笑顔で話すひろ君が好きだから。
ある日の帰り道。
萌花は思い切ってひろ君に聞いてみた。
「ひろ君は・・・・なんであの時、萌花に声をかけてくれたの?」
萌花の突然の質問にあの時?と悩むひろ君。
しかし、それが何のことか思い出したひろ君は少し照れながら「え?なんとなく・・・・萌花がどこか辛そうに見えたからかな?」と答えた。
その言葉に萌花は嬉しいようで少し寂しいような気持ちになった。
ひろ君が萌花以外の相手だったとしても同じことをするのはわかっていた。ひろ君はそういう男の子だから。ひろ君の優しさに助けられた人もきっと多いはず。
だけど・・・・・モヤモヤするのは何でだろう。
「萌花・・・・それはね、恋っていうのよ!」
「こ、恋?」
「そうよ!萌花は裕哉君に恋してるの!うふっ!今晩はお赤飯ね!」
「・・・・・・・・っ!!」
ある時、そんなモヤモヤをお母さんに相談してみると、嬉しそうな顔でそう言われた。
・・・恋。そっか・・・・これが恋なんだ。
物語では知っていたけどそれはフィクションの話だと思っていた。
だけど・・・言われてみれば、納得できた。そして、納得したと同時に自分の恋心を自覚して羞恥心で一杯になった。
「・・・お、お母さん静かにして!誰かに聞かれたらどうするの!」
「萌花の初恋~!娘の初恋~!」
「静かにしてってば!」
何よりよりにもよってお母さんに知られたのが最悪だった。
絶対萌花をからかってくるに決まってる。
はぁ・・・・すごく面倒くさいなぁ・・・・
でもそっか・・・・私、ひろ君に恋してるんだ。
「ひろ君おはよう!」
「あ、萌花おはよ」
「萌花ちゃんおはよー」
「・・・・・・・ひろ君、今日の体育は――」
「私を無視しないでよ?!そ、そもそも!なんで当然のように萌花ちゃんがいるの?!ひろ君は私の彼氏なんだけど?!」
朝。
これまでは舞依ちゃんに遠慮してたけどこれからは積極的に行こうと決め、一緒に登校することにした。
何か舞依ちゃんが騒いでるけど、そんなことは気にしない。
別に既にひろ君に恋人がいるなら・・・・・私に振り向かせればいいんだから。
★★★
あとがき
萌花ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!
読了感謝です!
もしよければ☆☆☆をくれたら作者が喜びます!
また、コメント等もモチベーションが上がります!
今後ともよろしくお願いします!
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