閑話 side舞依 舞依が惚れた日


side舞依



私とひろ君が出会ったのは、地域の子供会の集まりがきっかけだった。私たちが住む地域は交流が多くて、子供会や祭りなど何度も集まりがあった。ひろ君と初めて知り合って仲良くなれたのも、そうした行事でのことだったと思う。


あの頃のひろ君は今と変わらず優しくて、とてもカッコよかった。でも当時はもっと子供っぽくて、今みたいに距離感を気にすることもなく「まい!あそぼ!」と、退屈していた私に声をかけてきてくれたんだ。


今じゃ信じられないけど、最初は「えー、しょうがないなぁ」なんて、あまり嬉しくなかったのを覚えている。私はみんなと一緒に遊ぶより、一人で本を読んだり絵を描いたりするのが好きだったから。でも、何度か一緒に遊んでいるうちに自然と友達が増えて、ひろ君と一緒にいるのが当たり前になっていった。


後でお母さんから聞いたんだけど、私が一人でいることをちょっと心配していたらしい。もしかしたら、ひろ君はそんな私に気を遣って、積極的に声をかけてくれたのかもしれない。偶然かもしれないけど、それを聞いてから、ひろ君が特別な存在に思えてきた気がする。


ひろ君は、良くも悪くも「考えるよりまず行動!」というタイプだった。友達も多くて、毎日自転車で町中を走り回って、元気に遊んでいた姿を思い出す。そんな中で、特に私と一緒に遊ぶことが多かったのも不思議な縁かもしれない。宿題を一緒にやったり、公園で遊んだり、私の家でゲームをしたりと、毎日がすごく楽しかった。


でもその頃、ひろ君に対して恋愛感情は全くなくて、ただの気の合う男の子って感じだった。多分、ひろ君も同じ気持ちだったと思う。お互いにからかわれて「だれがこいつなんか!」って言い合ってケラケラ笑ったり、時にはケンカして仲直りしたり。そんな日常がずっと続くものだと思っていた。



それが変わったのは、ある日の帰り道のことだった。


その日は学校が早く終わって、いつもより長く遊べる!と喜んでいた私は、ひろ君と二人で家に向かう道を走り出していた。あまりの嬉しさに、通り沿いの家の花壇の縁に登り、その上をバランスを取りながら走っていた。普段はそんなことでケガすることなんてなかったはずなのに、その日に限って私は焦っていて、足を踏み外し、膝を強くぶつけてしまった。膝からは小さな出血がじわりと滲み、痛みが強くてその場にうずくまってしまった。


しばらくして私の異変に気づいたひろ君は、「まいちゃん、どうしたの?!」と駆け寄ってきて、真剣な表情で私を見下ろしてきた。その表情を見て、普段の元気なひろ君とのギャップに、思わずドキッとしたのを覚えている。


私が痛む膝を見せると、思った以上の出血にひろ君は驚き、ランドセルをその場に放り出して「待ってて!救急箱取ってくるから!」と言って、慌てて駆け出していった。


数分後、ひろ君は大きな救急箱を抱えて戻ってきた。少し息を切らせながらも、「これで消毒するね、大丈夫だから」と言って優しく声をかけながら、消毒液をコットンに染み込ませ、手際よく傷の手当てをしてくれた。その手つきは案外慣れていて、私はじっと彼の手元を見つめていた。


消毒が終わると、ひろ君は自分の手に残った消毒液を軽く振り払いながら、「大丈夫?立てる?」と私に尋ねた。何となくぼんやりしている私を見て、ひろ君は急にしゃがんで背中を向け、「背負ってあげるから乗って」と言った。恥ずかしい気持ちはあったけど、その優しさに甘えるようにひろ君の背に乗った。柔らかくて温かいその背中は、今でも鮮明に覚えている。


普段の私なら絶対に「やめてよ、恥ずかしいから!」と抵抗したと思うけど、その時は不思議とそんな気になれなかった。ひろ君の背中にいると、温かさと安心感に包まれるようで、その心地良さにただ身を委ねていた。


「大丈夫、すぐに家に着くから」と振り返りながら微笑むひろ君の横顔を見て、私は心がどんどん温かくなるのを感じていた。


その日から、私の中で何かが変わっていた。


今までただの仲良しの男の子だと思っていたひろ君のことを、気がつけばもっと深く知りたくなっていた。元気いっぱいでいつも笑顔を絶やさないひろ君が、私のためにあんなに真剣な表情を見せてくれて、こんなにも心配してくれた。その背中は私が思っていた以上に頼もしくて、そして優しさに満ちていた。


こうして私は、友達だと思っていたひろ君に、恋をしてしまったのだ。


思えば、この気持ちはずっと前から育まれていたのかもしれない。けれどあの日、ひろ君の背中の温もりに包まれた瞬間、私は彼に心の底から恋をしたと確信したのだった。


それからの私は、ひろ君と一緒にいると妙に緊張するようになった。以前なら何でもない些細な会話も、気持ちがバレてしまうんじゃないかとドキドキしてしまう。今でも変わらず「まい!あそぼ!」って元気に誘ってくれる彼を見ていると、あの日から私の気持ちはずっと同じなのに、どうしたらこの想いを伝えられるのかと悩んでいる。


ひろ君が私を大事にしてくれるその気持ちが、とても嬉しい。そして今度こそ、いつか素直にこの想いを伝えたい、そう心に誓っている。






★★★

あとがき



読了感謝です!

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また、コメント等もモチベーションが上がります!


今後ともよろしくお願いします!



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