第11話

ランヴァルトは、ひとしきり口づけると唇を離し、リーゼロッテの手をぎゅっと握りしめた。

 その温もりを忘れないよう、惜しむように。


「リーゼ、そんな風にそなたに思わせていたなんて、私はなんと愚かだったのだろう」


「──へい、か?」


 リーゼロッテが見上げると、ランヴァルトは苦痛に顔を歪めている。

 まるで、罪を宣告された罪人のように。


「私はそなたにどんどん惹かれてく自分が怖かった。リリアーナは私を守るために死んだのに、自分が幸せになってはいけないと思っていたのだ。だが、もう自分の気持ちを偽ることはすまい。なにより、愛する人を二度と一人で死なせたりしない。おいで」


 ランヴァルトはリーゼロッテの手をぐっと引き寄せ、クリストフを軽々と肩に背負うと、壁に嵌めこんである石をいくつか押した。


 すると壁だと思っていた戸が開き、まだ造って間もないと思われる新しい階段が現れた。


 階段の下には、すでにランヴァルトの配下の者が彼らを救出すべく蝋燭ろうそくを振りかざして合図を送っている。


「まぁっ、こんな……」

「万が一のために、この塔にも新しく隠し通路を作っておいたのだよ。それにもう我が軍が敵を制圧しているだろう。もともと私は国境に行くと見せかけて、内通者を焙りだすために仕掛けた罠だったのだ」


 ランヴァルトはニヤリと笑う。


「リーゼロッテ、やり直そう。はじめから。そなたをクリストフの妻にしておくと、嫉妬で死んでしまいそうだ。実際、そなたらが一つのベッドで寝ていると思うと気が気ではなかった」

「ランヴァルト様っ……」

「リーゼ、愛しているよ」


 新しい人生を目指し、三人は塔を後にした。


 ──数か月後、再び国は平和を取り戻し、王は新しく王妃となったリーゼロッテを片時も傍から離さなかったという。


 塔には麗しい前王妃の彫像が建立され、王と王妃が毎日欠かさずに、前王妃の愛した花を供えていた。



 ―FIN-

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心を捨てた王と、夜だけ身代わりの妻となった王女の話 月乃ひかり @LairLune

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