第5話
寝台に一人座り、あれこれと思いを巡らせているうちに、いつしか眠気が勝ってしまったようだ。
どこか懐かしい男性的な香りがして、ふと目を開ける。
そこには逞しい体躯の男が寝台に腰かけていた。
ひょろりとしたクリストフではない。闇のヴェールを纏ったような漆黒の瞳が、リーゼロッテを静かに見つめていた。
「ん……、ランヴァルト陛下……?」
どうしてこの寝室に、国王がいるのだろう。
しかも彼は、ガウン一枚の夜着姿だった。
今宵は、クリストフ王子との初夜のはずなのに、なぜ──?
「クリストフ、様は……?」
思わず出た声が、寝起きの甘ったるい声になってしまった。だが、それに気を許したのか、昼間は怖いと思っていた国王の声も少しだけ柔らかいものになった。
「クリストフは、来られない。熱が出てしまってね。いつものことだ。心配することはない」
「そう……なのですね」
では、今夜の初夜は無しなのだ。体調の悪いクリストフには申し訳ないが、リーゼロッテも緊張して疲れていたせいかほっとしてしまう。
それを伝えに、わざわざ国王が来てくれたのだろうか。
「だが、予定どおり、初夜は行う。よいな」
不意打ちのような言葉に、リーゼロッテは瞠目した。
ランヴァルトの言っている意味が分からない。
「あの、クリストフ様は、来られないと……」
「ああ、そもそも初めからクリストフはここに来る予定はない。この部屋は私の寝室だ。彼は病弱で生まれつき性行為ができないのだ。分かるか」
リーゼロッテは、ぽかんと口を開けた。生まれつき性行為ができないとは、どういうことなのか。
「クリストフは、二ヶ月も早く生まれたせいで、勃たないのだよ。ゆえに、子種を残すことが出来ない。そなたは表向きはクリストフの妃だが、世継ぎを残すために夜は私と同衾してもらう」
その言葉にリーゼロッテはぞわりと全身が粟立った。
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