第3話
「──姫さま、どうぞこちらへ」
その日。
リーゼロッテは、ドキドキしながら先導する女官の後に従い、王子の寝室へと続く廊下を進んでいた。
今日は、レイドブリア王国の世継ぎの王子クリストフと隣国の王女であるリーゼロッテの結婚式だった。
夜までかかった長い式典を無事に終え、ようやくこれで寝室に戻ることが出来る。
とはいえ、これからが両国の結婚の最重要な儀式に他ならない。
初夜の儀式があるからだ。
それなのにリーゼロッテが通されたこの部屋は、クリストフには少々似つかわしくない気がする。
ぶ厚い豪奢なヴェールで装飾された四柱式の寝台は、荘厳な雰囲気を漂わせている。だが、一国の王子の寝室ともなれば、本人の好みとは無関係に、代々、受け継がれているのかもしれない。
結婚式で初めて会ったクリストフは、十八年前にこの国で起こった内乱の最中に生まれたという。
そのとき王妃は命を落とし、赤子とともに逃げのびた王は国王軍と合流し、裏切り者はたちどころに処刑されたそうだ。
王の怒りたるや、国王軍も恐れるほど、まるで狂った獣のように見境なく敵を容赦なく切り刻んだと言い伝えられている。
一方、クリストフは早産だったせいか病弱だとは聞いていたものの、まるで女性のように線が細かった。それに性格も穏やかでとても優しく、年齢よりも少し幼い印象だった。
それなのにリーゼロッテが通されたこの部屋は、クリストフには少々似つかわしくない気がする。
ぶ厚い豪奢なヴェールで装飾された四柱式の寝台は、荘厳な雰囲気を漂わせている。だが、一国の王子の寝室ともなれば、本人の好みとは無関係に、代々、受け継がれているのかもしれない。
実家の国から一緒についてきた侍女のルチアとその部屋で二人きりになると、ようやくリーゼロッテはほっと肩の力を抜いた。
「姫さま、お疲れ様でした。さぁ、こちらの寝間着にお召替えを」
「ええ、ありがとう。クリストフ様はもうそろそろ来られるのかしら」
「はい、式典でだいぶお疲れのようで、まずは薬湯を飲んでお体を休めてからいらっしゃると伺っております」
「そう……」
リーゼロッテは不安になった。式典の時も、少し熱があるということで、かなり身体が辛そうだったからだ。リーゼロッテの隣で、彼は侍従に支えられてようやく立っていた。無理に今宵、初夜をしなくてもいいのではないのかと思ったのだが、王族同士の結婚となれば、そう簡単にはいかないのかもしれない。
「でも、姫様の結婚相手が王子様の方でよかったですわね。父君で国王であらせられる血濡れのランヴァルト様の方ではなくて」
「血濡れのランヴァルト様って?」
リーゼロッテがルチアを見ると、言っていいのかどうか躊躇しているようだったが、恐る恐る話し始めた。
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