第18話

「歌えそうなの?ソロ」



いつの間にか、ピアノのそばまで戻ってきていた東条さんが連弾するように、私の指にならって鍵盤を叩いた。



「……分かりません」



コンクール当日に歌えるかどうかと聞かれたのなら、それには「はい」と答える。



ただ、当初話していた、歌詞にある恋して幸せな女性の気持ちを理解したかという意味なら、



答えは「いいえ」だ。



片想いの、切ない感情で歌う歌詞なら、今すぐにでも歌えそうだけど。



こんな、幸せに溢れる歌詞を今の私が歌えるわけない。



「そうだよね、オレはなにも教えてあげてないからなぁ」



「分かってるなら、教えてくださいよ」



拗ねて見せると、まいったなと苦笑いする。



嘘。



本当は、ただそばにいるだけで嬉しいって気持ちや、



髪を撫でられた時の、胸がドキドキするトキメキは十分に教えてもらってるんだよ。

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