第9話

沈黙が5分を越えた頃、さすがにもう駄目だと思った。



これ以上、彼を煩わせるのも嫌だった。



「すみません、無理なお願いでしたね」



忘れてください。



そう呟いて、音楽室を出ようと出口へ向かう。



恥ずかしくて、顔は見られなかった。



一刻も早くここから出ていきたかったけれど、ぐっと堪えてなんでもないふりを装った。



その背中に東条さんの声がかけられた。



「……いいの?」



「……はい。ちょっと、他を当たってみます」



振り返らずに答えた。



他を、なんて言ったけど。



他の誰かを、東条さんの代わりには出来るわけないと思った。


恋愛の擬似体験なんて言っちゃったけど、



私がしたいのは、擬似体験じゃなくて本当の恋愛だから。



それを、東条さん以外とする気なんてないよ。

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