第8話
「僕に出来る範疇を越えてるよ」
困った顔をした東条さん。
「そうかな?」
「恋なんて、教えて分かるものじゃないよ」
「……恋愛の擬似体験、」
「擬似体験?」
「そうです。恋人の真似事」
どうにかして首を縦に振らせたかった。
だから、思い付く限りの理由 を並べた。
「私、今まで誰とも付き合ったことないし、この歌のように男性を好きになったことがないから」
だから、このままじゃ歌えない。
後から考えれば、無茶ぶりだったと分かる。
「好きなヒト、いないの?」
「居ません」
きっぱり言い切ると、東条さんは小さく溜め息をついて黙り込んでしまった。
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