擬似恋人

第7話

「東条さん、」



呼び掛けた私に、彼は優しく笑ってくれる。



「どした?」



ピアノの前に座る、東条さんのそばに近づく。



真剣な気持ちで、



「私に、恋を教えてください」


と、伝えた。



鳩が豆鉄砲を食らう……とは、こういう表情なのかと、東条さんを見て思った。



「……大人をからかうなんて、らしくなくない?」



からかったつもりなんて毛頭ないのにな、



「今のソロパート、恋する女性の気持ちでしょう?」



「曲の為に?」



「もちろん、」



そんなわけないでしょ?



東条さんと、少しでも特別な時間を持ちたいからでしょ。



心の中で留めた言葉は、鉛みたいに鳩尾奥へ溜まる。

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