第10話
扉に手をかけた私の手に、私より遥かに長くて大きな指が重なった。
体が、ぴくん、と跳ねる。
その手の持ち主なんて、今一人しかいない。
今しがた冒してしまった、恥ずかしいお願いの言葉の羅列を全て、捨ててしまいたかった。
呆れた顔も、困った顔も、もう見たくなかった。
固まったままの私に、耳元で呟かれた言葉に、さらに体が震えた。
「他の、誰に頼むの?そんな事」
「わ、わかりません……けど、ちゃんと恋愛してソロパート歌って見せます」
今さら歌の為じゃないなんて言えなくて、必死で嘘を突き通した。
「だめだよ、」
優しく叱られて、扉にあった手を掴まれて、向き直らされた。
「そんな理由で、彼氏なんて作らない方がいい」
尤もな事を言われた。
「わ、分かりましたっ、」
恥ずかしさはピークだった。
こんな当たり前の事を教えないと分からない、無知な子だと思われている。
そう思ったら、一刻も早くここから出ていきたかった。
東条さんが手を離してくれたなら、今すぐにでも出ていくのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます