第10話

扉に手をかけた私の手に、私より遥かに長くて大きな指が重なった。



体が、ぴくん、と跳ねる。



その手の持ち主なんて、今一人しかいない。



今しがた冒してしまった、恥ずかしいお願いの言葉の羅列を全て、捨ててしまいたかった。



呆れた顔も、困った顔も、もう見たくなかった。



固まったままの私に、耳元で呟かれた言葉に、さらに体が震えた。



「他の、誰に頼むの?そんな事」



「わ、わかりません……けど、ちゃんと恋愛してソロパート歌って見せます」



今さら歌の為じゃないなんて言えなくて、必死で嘘を突き通した。



「だめだよ、」



優しく叱られて、扉にあった手を掴まれて、向き直らされた。



「そんな理由で、彼氏なんて作らない方がいい」



尤もな事を言われた。



「わ、分かりましたっ、」



恥ずかしさはピークだった。



こんな当たり前の事を教えないと分からない、無知な子だと思われている。



そう思ったら、一刻も早くここから出ていきたかった。



東条さんが手を離してくれたなら、今すぐにでも出ていくのに。

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