第43話

つっかえ棒にしていた両腕は、あっさり伊吹の手に捉えられて。


慣れない距離に伊吹の顔があった。


声すら出せないこの状況に、私の思考回路は停止した。


そっと離れて行く伊吹の顔。


息をするのを忘れた私の肺。


苦しいのと、わけが分からないのと……って、今のなに⁈



「すっげーマヌケ面」



ぶっ、と吹き出す伊吹の声に我に返った。



「ちょっ⁈……今のなに?」



「今のって……あぁ、一般的にキスっていうんじゃね?」



目の前であっさり言い放った伊吹って一体どういう思考回路してるの⁈


私があの時言ったのは、誰彼構わず手を出すって事じゃないよ?


それなのに……あろうことか彼女が出来た身で、私にキスしてくるなんて。



「最低っ、」



吐き捨てるように口にすれば、伊吹は大きくため息をついた。

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