第30話

「弟……」


心は正直だ。


楓の眼中に伊吹がいないことに、私はホッとしている。


楓が伊吹を好きなら、諦める以外選択肢は無かった。


……ううん。


楓が相手でも、一度気付いた自分の気持ちに嘘はつけない。


楓がライバルなんて絶対やだもん。



「それにしても、伊吹の好きな人って結局分からずじまいなんだよね」



「そうなの?」



実は楓だよ。


そう言いたいのをグッと堪えた。


伊吹には悪いけど、楓の恋を私は応援する。


振られて落ち込む伊吹を慰めてあげるんだ、なんてひどいことを考えている自分が浅ましい。

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