第5話

「……ありがとな」



「え、?」



お礼を言われるとは思わなくて、驚いて顔を上げた。



「ど、して?」



「……真面目に聞いてくれたろ?よく知らない奴に言われて、嫌な顔されるかと気ぃ張ってたから……ホッとした」



目の前にあったのは、さっきまでの落胆した彼でなく、不器用に笑う彼。



とくんっ、と胸の奥で小さく何かが跳ねた。



「……じゃあなっ」



進藤くんは、ひらりと手を振って体育館から出て行ってしまった。



「……びっくりした」



呟きと同時に落としたバスケットボールが、床の上でトゥイン……と音を立てて転がっていった。

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