episode2:理科室とイケメンと

第14話

遊佐くんから逃げて、理科室に来た私は準備室の奥の棚に並べられたペットボトルを手にとって近くのパイプ椅子に座った。


光に透けて見ればペットボトルの中には前に見た時より更に増殖したゾウリムシ達がふわふわと泳いでいる。



「癒されます……」



溜息混じりの声に返る言葉はない。


だけどいいんだそれで。


こうして過ごす時間も嫌いじゃない。むしろ心が癒されて楽になれる。



「なんだ、ここにいたんだ」



不意に耳に飛び込んできた声、そして気配に鳥肌がたった。


なんで?


声の持ち主が準備室の窓を開けて覗き込んできた。


ゾウリムシに癒されて、神経が鈍くなってたのか気配に気付けなかった。



「遊佐……くん」



その人の名前を呟くと、舌がじんわりと重たくなって口を噤んでしまいたくなる。


そんな私の様子に気付いているわけない彼は、窓からヒョイと準備室の中に入ってきた。



「な、何か用ですかっ?」



椅子から立ち上がり、自然と彼との距離をとろうとする自らの条件反射的な態度に遊佐くんの足が一瞬止まった。

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