第13話

理科室でゾウリムシを育て始めたのは高校1年の夏休み少し前位から。


ぼっち、という存在はどうやら一部の先生方には庇護欲を掻き立てるものらしい。


理科の担当教師の千成(ちなり)先生は、昼休みに中庭でぼっちランチをしていた私に優しく声をかけてきてくれた。


ちょうど理科室の窓から中庭が丸見えで、時々見かける私の事が気になっていたらしい。


それから理科室で昼休みを過ごすことが増えて、千成先生は私の話をなんでも聞いてくれた。


ゾウリムシの育て方も千成先生が教えてくれた。

ゾウリムシを育て、愛でて、千成先生に話を聞いてもらう。それが私の日課になっていった。


人って話を聞いてくれる人が1人でもいると、心が癒されて少しずつでも強くなれるらしい。


強くなれるともう少し行動範囲を広げてみようと思えるらしい。


クラスメイトと少しずつ話せるようになって、理科室へ訪れる頻度が減っていった。


それからの私にとってこの場所はゾウリムシを愛でに来る場所ってだけだったのに。


ここを再び逃げ場にする日が来るなんて……。


昼休み、とまこと過ごすはずだった時間は急遽全てをゾウリムシに充てることになるのは、半分寂しくて半分ホッとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る