第10話

そんな女子が苦手な遊佐くんが、ある日私に声を掛けてきた。


あれは夏休みに入るよりもっと前位だった。



「あの猫どうなった?」



突然、しかも普段女子に自分から話しかけるなんてした事のない遊佐くんが、クラスでも地味で目立たない私に話しかけてきたことは、周りの女子から見ても相当異様な光景だったらしく、ザワザワと妙に騒ついた教室の空気を感じて一気に気分が重くなった。


しかもあの猫って?


遊佐くんと私の間で猫に関係した出来事は皆無だったはずだ。



「……覚えてないの?」



若干不機嫌な声音に肩がピクッと震える。


男子のこういう威圧感のある声音は昔から苦手だった。



「ごめんなさい。……猫って?」



もしかしたら私が本当に覚えていないだけで、今の私の態度は遊佐くんを傷つけているのかもしれないと思って素直に謝った。


だけど彼の不機嫌な声音は、表情にまで伝染した。


普段からあまり笑顔を見せる彼ではないけれど、こんな風に嫌悪感を露わにする人でも無かったはずなのに。



「もういいよ」



素っ気ない言葉が落ちてきて、心臓が大きく脈打った。

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