episode1:瓶底メガネとゾウリムシ

第5話

「また、理科室?」



「ごちそうさま」と両手を合わした私の前で、栗色のショートボブの髪を揺らした友人の吉田とまこが、お弁当箱をバッグにしまいながら小さく溜息をついた。



「猪戸(ししど)先生につかまって朝は時間なくなっちゃって……今日はまだあのコ達に会えてないんです」



とまこよりも一足早くお弁当を食べ終わっていた私は、デザートのおせんべいを食べながら答えた。



「あのコ達って、単細胞生物をペットみたいに呼ぶのはやめてほしい……」



はぁ、と声まで漏れた先程よりも大きな友人の溜息に眉をひそめる。



「正確には繊毛虫門少膜綱膜口目ゾウリムシ科ゾウリムシ属Parameciumの総称です。一般的にペットと呼ばれる犬や猫らとなんら変わりなく愛しむべき生物ですよ?」



そう、犬や猫みたいにうるさく鳴いたりしないし、排泄物が臭いわけでもない。


熱帯魚のように高価な設備も必要ない。


高校生の自分にとってとても育てやすいペットだ。


何よりあの優美なスタイルにはウットリするし、増殖力には尊敬の念すら抱いている。



「少なくともそう思ってるのは古都子さんだけだよ」



彼女の溜息は深くなるばかり。

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