第2話

「大丈夫だからね……」



何度も同じ言葉を呟きながら、彼女は何かを抱き締めていた。


その何かが俺が意識を向けた鳴き声の持ち主だったのだけど。


猫、だよな?


ほんの少し自らの歩みを彼女とその鳴き声に向けた。


彼女に近付いたことで、視界の悪い中とはいえ彼女の状態をなんとかうかがい知ることができた。



「うわ、」



思わず吐き出した声音は、確かに感じの良いものではなかっただろう。


それを理解したのは、俺の声に気付いて視線を上げた彼女の眉間にくっきりと寄せられた皺を見た瞬間。


だって、あんまりにも酷い状態だったから……。


言い訳を頭の中で考えて、だけどそれを言葉にすることはできなくて喉元が苦しい。


目の前の彼女は全身ずぶ濡れで、胸に抱いた猫を包むタオルは赤黒く汚れていた。


泥なのか、血なのか咄嗟には判断がつかない汚れ。


でも、にゃあ……と力無く鳴くその声は弱り切っていた。



「……ケガしてんの?それ」



俺がかけた言葉のどれに反応したのか、彼女の眉間の皺は更に深く刻まれた。


軽蔑に近い色を湛えたその目に怯んで次にかける言葉がでてこない。


僅かな時間、俺はその彼女と見つめ合っていた。

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