27. ニニンドが舞う
翌朝、ニニンドは国王のところへ行き、母の追悼式では自分が一曲舞いたいと申し出た。
J国では客を招いた式典で、王族が自ら余興を見せたという前例はないのだが、王はその場で許可を与えた。何にでも、特例というものがある。
とにかく、グレトタリム王は何をしても、ニニンドにこの国にいてほしいのだ。心穏やかに、元気で、そばにいてほしい。
もしニニンドに対する人々の関心がまし、過去についてあれこれと変な噂が流れたとしても、そちらのほうは国王として、抑制できるだけの力はあると王は思っている。
「つきましては、三十人ほどの踊り手をお借りするのは可能でしょうか」
「わかった。問題ない」
王は内心は驚いていたのだが、「三十人ほどでよいのか」と訊いてみた。
「では百人、お願いします」
この青年はなんと豪胆でスケールが大きいことよ。グレトタリム王は甥をますます気にいるのだった。
追悼式の当日は、前庭の正面、いつもは国王が座するところに広い舞台が設置されていた。それに向かって、王が最前列の中央に着席し、すべての参列者はこの舞台に向かって座った。
舞台には中央右に大きな木が一本、後ろに
題目は「自由の舞い」とつけられた。グレトタリム王は、この舞踊に自分の名前をつけたところに、彼の大胆さと母親への思いを感じていた。
いよいよ始まった。
まずは笛の音が聞こえた。
そして、小鳥の声。
赤い衣装を着た長い髪の少女が現れた。その少女はクリオリネ姫で、少女を演じているのはニニンドだった。その美しさに、招待席の小さな驚きの声が結合して、おおっという大きなどよめきになった。
少女は軽やかに舞いながら、鳥たちと話し、花々と話し、空と話す。自然の中を駆け、自由を楽しみ、幸せそのものである。少女は木に登る。木の上から下を眺めて、喜ぶ。そして大空に向かって手を伸ばす。しかし、手は空には届かない。少女は身を乗り出し、さらに手を伸ばす。その時、身体が宙に舞い、その時、赤い衣が天女の白い衣に変わった。今、白い薄絹を着た少女が、天を舞う。
ニニンドの身体には白い紐もがついていて、舞台の裏ではそれを操作する男達が四人。それが練習の中で、一番難しいところだった。
やがて少女の姿は消えるが、百人の天女がなだれ込み、喜びの舞を踊る。どこからか拍手が起こり、それが喝采の嵐に変わった。
そこに濃紺の衣装のニニンドが現れ、静かな舞いで締めた。それが、母親への感謝なのだろう。
この企画、構成、実演、この青年は並外れた才能の持ち主に違いないとハヤッタは感心した。しかし、これは国王の器というのとは別ものだろう。
グレトタリム王は悦に入り、ハヤッタは座員達には過剰なほどの褒美を与えた。これをもってY国に帰れば、一生安泰に暮らしていける額だった。これでニニンドの心配の種がなくなったはずである。あとはそこそこお好きな方を見つけて結婚され、少しでも早く健康な男の子が生まれますようにとハヤッタは願うのだった。
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