24. ナガノの誓い

 以前、ナガノは宮廷に長く勤め、人の世話をよくし、配膳長にまでなった。けれど、彼女の願いはクリオリネ姫のおそばに仕えることだった。ナガノは活発な姫が大好きで、姫のおそばで働きたいと根強い運動をし、ようやくその願いがかなったのだった。

  姫が詩人と逃亡した時、ナガノは姫の性格をよく知っていたので、自分だけは捜すことができると信じていた。姫の行先はY国の山の向こうにある秘湖だと読んでいた。その湖を詠んだ詩が、そこが姫が一番お気に入りだったからである。王宮警察や軍隊など、多くの者が追跡したが、見つけられずに戻ってきた。しかし、ナガノは諦めなかった。


 もともとナガノは熱くなると突っ走る性格で、その時も、ひとり突っ走った。ところが、夜の山道で、イノシシに追われて大怪我をしてしまった。それを偶然見つけてくれたのがクリオリネ姫で、姫はナガノを救うために、山賊の親分に助けを求めたのだ。

 駆け落ち相手の詩人はいつの間にかいなくなったが、ナガノの傷が回復した頃、姫が妊娠していることがわかり、それでその山にいつくことになり、やがて姫は山賊の女親分になったのだった。

 ナガノは、姫様にも、若さまにも、たくさんの恩がある、愛がある。

 

 若さまは子供の時から、親分として座長として、年寄り達の面倒をみるために、身を削ったりもしたが、誰ひとり見捨てることがなかった。彼は子分たちには限りなくやさしいが、その周囲には氷のような囲いを作り、ひとりだけの世界に生きている。少年はそうしなければ生きてはいけなかったことをナガノは知っている。


「若さま、年寄りはこのままにして、どうぞお逃げください」

 ナガノが一度、ニニンドに言ったことがある。

「それはできない」

「どうしてですか。後は、私がなんとかしますから、ご心配なく」

「ナガノに何ができるというんだい」

 と若さまが微笑んだ。


「若さまには将来がおありになるのに、私どもがくっついていては、足手まといどころか、重荷になるばかりです」

「私達は家族なのだから、よい時も、悪い時も、さいごまで一緒だ。だから、そんなことは考えてもいけない」


 この方が国王でなくて、誰がJ国の国王にふさわしいというのか。ナガノは自分が生されてきた意味もここにあると思った。この天が与えられた機会を逃がしてなるものか。


「次の王は若さま、私はこのことに、命をかけよう」

 ナガノは心に誓った。J国に戻って、新しい目的ができたのだ。


 ナガノは目が少し見え始めると運動だと称して、宮廷のあちこちを歩き回り、古い仲間を探した。怪しまれると、盲目の振りをすればよかった。

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