第86話
目の前の水族館は以前宇野くんと来た水族館よりも大きかった。新しく増設したペンギン館ができたことでさらに大きく見えるのかもしれない。
チケット売り場でチケットを購入して、入場したのは良かったものの、人の波に押されるようにして気付けば一人大きな水槽の前にいた。
皆とはぐれてしまった。
はぐれてしまったのにホッとしてしまった。
車から降りてから、ずっと私の前で手を繋いで歩く、宇野くんと西条さんの姿を見せつけられて、正直気持ちがどんどん重く苦しくなっていくのが分かった。
「このまま、はぐれたままでいられたらいいのに……」
そうすれば仲のいい二人を見ずにすむから。
独り言が水槽に向かって吐き出されて、分厚い壁の向こうに吸い込まれていく気がした。
「御門さん、皆が探してるよ」
背後から声をかけられて振り返った私の目の前にいたのは、川原くんだった。
「あ、ごめん。人がすごく多くてここまで流されちゃったみたい」
慌ててそういった私を川原くんは小さく笑った。
「まるで子供みたいだな。御門さんって」
子供みたいだって言われて正直気分はよくなかったけど、私を見つけてくれたのが彼でよかったのかもしれないいと思う。
他の誰か、特に宇野くんと私のことを知っている人達だったら、さらに心配をかけてしまうだろうし。
「皆のところに戻ろう」
彼にそう言って歩き始めた私の手を川原くんが掴んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます