第54話
何も知らなかった。宇野くんがそんな大変な状況にいたなんて。
だって、ずっと笑ってた。
図書館出会っている時、ボランティアでお手伝いをしている時も、いつだって楽しそうにしてた。
そんな、両親が離婚して、更に実の親から離れなきゃいけなくなるなんて、そんなことになっていたなんて気づきもしなかった。
「宇野、あんまり自分のこと話さないしね。高田とはよく喋ってる姿を見たけど、でもそんな家庭が大変そうには見えなくて、だから噂って範疇を超えなかったんだよね」
市原さんが思い出したように言って、高田くんの方をチラリと見た。
「宇野くんが預けられたっていう、祖父の家がどこにあるか知ってる?」
皆んなが教えてくれたことを全部何も知らなくて、のほほんと過ごして自分が嫌になる。
知らないと皆んなが首を左右に振るのを見て落胆してしまう。
「だから、高田に聞こうとしてたの?」
「うん。でも、高田くんちょっと誤解していて……」
「誤解って?」
「私が宇野くんを振ったって。私が彼を傷付けたって怒ってるみたいなの」
「え?いろはって宇野と付き合ってたの?」
千早さんが驚いた様子で声を上げた。心なしか興奮しているように見える。
「付き合って……ない。ただ一緒に図書ボランティアをしたり、水族館に行ったりしたの。私は宇野くんの事を……好きになって、好きですって伝えた……」
思い出せば昨日のことのように鮮明に思いだせる。
あれは、私にとって特別な思い出。
付き合おうと言われたわけじゃない。だけどずっと隣を歩いて行けると思っていた。
それが急に連絡も取れなくなって、会えなくなって。
どうしていいか分からなくなった。
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