第9話
「俺のこと、分かる?御門 いろは(みかど いろは)さん」
相手にフルネームで呼ばれて、ようやく相手の名前を思い出した。
「宇野 (うの )……くん」
目の前の彼の名前を口にしたことで、ハッキリと教室にいた宇野くんの姿を思い出すことができた。
出席番号は前の方。
背の順で並ぶと後ろの方にいる彼とは、接点がなかった。
私は出席番号では後ろの方だし、標準より背は低いから、背の順では前の方だ。
視界に入っていた人と、その外にいた人とでは、私の中の認識はかなり差があるらしい。
「よかった。クラスメイトから忘れられてる俺って、どんだけ存在感薄いのかって不安になった」
へらっ、と笑った宇野くんの顔は少し幼く見えた。
彼の顔をこんなに近くで見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「……存在感の話をしたら、私の方が薄いでしょう」
「そうか?……いや、そんなことないと思うけど」
首を傾げて少し考える様子を見せた後、彼はそう言って否定した。
お世辞とか、社交辞令とか、そういう気遣いができる人だったんだって、ちょっと意外。
宇野くんという男子生徒のことを思い出そうと必死で考えて、思い出したことが一つ。
彼は口数が少ない人だということ。
いつも誰かと一緒にいるけれど、決して目立つ人ではない。
だけど授業でも、クラス活動でも、自分の意見はちゃんと言える人だ。
自分を持っている人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます