第9話

「俺のこと、分かる?御門 いろは(みかど いろは)さん」



相手にフルネームで呼ばれて、ようやく相手の名前を思い出した。



「宇野 (うの )……くん」



目の前の彼の名前を口にしたことで、ハッキリと教室にいた宇野くんの姿を思い出すことができた。


出席番号は前の方。


背の順で並ぶと後ろの方にいる彼とは、接点がなかった。


私は出席番号では後ろの方だし、標準より背は低いから、背の順では前の方だ。


視界に入っていた人と、その外にいた人とでは、私の中の認識はかなり差があるらしい。



「よかった。クラスメイトから忘れられてる俺って、どんだけ存在感薄いのかって不安になった」



へらっ、と笑った宇野くんの顔は少し幼く見えた。


彼の顔をこんなに近くで見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。



「……存在感の話をしたら、私の方が薄いでしょう」


「そうか?……いや、そんなことないと思うけど」



首を傾げて少し考える様子を見せた後、彼はそう言って否定した。


お世辞とか、社交辞令とか、そういう気遣いができる人だったんだって、ちょっと意外。


宇野くんという男子生徒のことを思い出そうと必死で考えて、思い出したことが一つ。


彼は口数が少ない人だということ。


いつも誰かと一緒にいるけれど、決して目立つ人ではない。


だけど授業でも、クラス活動でも、自分の意見はちゃんと言える人だ。


自分を持っている人。

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