第3話
昔は家族で花見にだって行っていた。
桜の花に手を伸ばす幼い私と妹の写真がアルバムの中にあるのだから、その頃はまだ春という季節を楽しむことができていたのだ。
いつからだろう。
花粉症のせいで、春という優しいはずの季節を素直に喜べなくなったのは。
それでもキライではない。
満開の桜を見れば心が躍るし、色鮮やかな景色は見ているだけで気持ちが癒される。
ただ、それは室内という囲われた空間の中で、外気に触れずに過ごせる時に限られるのだけれど。
「ねぇ、退屈じゃないの?」
休みに入って1週間が過ぎた頃、一切外に出ようとしない私に母が尋ねてきた。
高校に入って半年で部活を辞め、それでも平日は課外に参加して19時前に帰っていたけれど、休日は家で過ごすことが多かった。
長期の休みに入ったら、本当に引きこもりみたいに家から出なくなった高校生の私を、心配する母の気持ちも分からないではなかった。
「友達と約束とかないの?」
「友達もあまり外に出るのを嫌うのよ」
「最近の高校生って不健康ね、こもってばかりなんて」
単身赴任中の会社員の父と、看護師としてクリニックで働く母。
そして部活に燃える中学生の妹も帰りは遅い。
昼間誰もいなくなる我が家は、まさに天国なのに、母のそんな小言でケチがついた気分になる。
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