「自称」天才発明家【ルネ】

1 研究室にはアイデアがいっぱい

 オレとジョゼは二人っきりだった。

 馬車は、仲間候補のルネさん家の近くに止まっている。


 他のみんなは、ルネさんに会いに行った。


 ルネさんは発明家なのだそうだ。

 ルネさんの人柄や発明品を観察した上で、『魔王戦で役立つ人だ!』ってみんなが認めたら、オレもルネさんに会う。

 まあ、そこでオレが萌えられなきゃ、仲間にはできないんだけど。


 今、目隠しをしたオレの横には、ジョゼが座っている。

 みんなと一緒に行っといでって言ったのに、『ジョゼは……お兄さまと一緒にいます……』と、オレの袖をつかんで馬車に残ったんだ。

 けど、ずっと黙ったままだ。オレの横で、モジモジしてる。


 ジョゼは、内気で人見知りだ。

 オレとサラとしか、会話しない。

 セリアは苦手そうだし、『ほとんど知らない人』達と一緒に、『知らない人』に会いに行くのが怖かったのだろう。


 オレの仲間は、百人にまで増える。

 これから先、ジョゼは大丈夫なんだろうか?

 ちょっと心配になった。


「ジョゼ」

 オレは左手でジョゼの腿に触れた。手を握ってやろうと思ったんだけど、思った場所になかった。

 目隠しのせいで、どこにあるのかわかんない。ジョゼの腿の上に掌を滑らせ、ジョゼの手を捜す。

「お、お、お兄、さま?」

 どこだ、手は?


「これから先、どんどん仲間が増えてくけど、不安になるなよ」

 みんな、仲間なんだし。

「おまえは、他の仲間とは違う」

 大切な義妹だ。


 お。

 あったぞ、手。

 握ってやろう。

「大事にする。オレを信じてくれ。絶対、おまえを泣かせないから」

「ジャンお兄さま……」

 ジョゼの体が震えている。

 手を握る程度じゃ駄目か? 不安は消えないか。


 んなら……


 体の向きを変え、オレはジョゼを抱きしめた。

「オレが一緒にいれば、怖くないだろ?」

「あ……」

「できるだけ、おまえの側にいるようにする」

 だから、ちょっとづつ人見知りを直していこうぜ。


「魔王を倒すまで、頑張ろうな」

「……はい……お兄さま」

 ジョゼが小さく頷く。体の震えは止まらないし、伝わってくる心臓の鼓動はやたら早いけど……

 ちょっとは安心させられたかな?



 ジョゼがオレを軽く押して、離れる。

 馬車の外から声が聞こえてきたせいか。

 お兄ちゃんに甘えている姿を見られるのは、恥ずかしいんだな。


「ジャン、ジョゼと一緒に出て来て」

 サラだ。

「セリアさんも、もう反対してないから。ルネさんに会って」


「へー、百万ダメージ以上、出せそうな人なんだ」

「というか……」

 サラが口ごもる。珍しい事もあるもんだ。

「すごい人よ……」

 すごい?

「見ればわかるわ。来て」



 こ、これは……

 確かに、すごい……

 目隠しを取ったオレは、硬直してしまった。


「あなたが勇者様? 会えて、ちょー感激! ルネでーす、どーぞ、よろしく!」


 客間に居たものを、オレは、まじまじと見つめた。

 こちらの戸惑いなど承知しているとばかりに、相手は自分の胸をバン! と叩いた。


「これに注目なさるなんて、さすが勇者様。お目が、高い!」

 いや、視線を向けたら、否応もなく見ちゃうでしょ、そこ。


「ただのヘルメットと、ごっついプロテクターと思っては嫌ですよ! ドラゴンにふみつけられてもへっちゃらな強度! 背中には、魔法機関のロケットエンジン! 城壁すら一撃で粉砕する鉄の拳! これこそ、私の最高傑作のひとつ、フル・ロボットアーマーです!」

 えっと……


「腹部には、トランクばかりか、貯水タンクに食料収納ポケット、更には薬箱までついています! これさえあればもう大丈夫! どこで迷っても安心です! 迷子の友、その名も『迷子くん』。今ならたったの百二十万ゴールドです。いかがです、一着!」

 迷子用装備なのか、それ……


 目の前の人物は、たとえるなら、足が生えたチェストだ。木製ではなく、金属製だが。

 頭部はフルフェイスのヘルメットに覆われている。半透明なシールドガードのせいで、顔がまったく見えない。


「私の発明品は、まだまだあります」

 機械仕掛けの手が、ロボットアーマーの腹部より、さまざまなモノを取り出す。

「『お顔ふき君』に『どこでもトイレ』でしょ、『魔力ためる君』や『呪文いってみよー君』もあります。『ぶんぶんナイフ』なんかも、冒険のお供に役立つはずー」


 はあ。

 いやいやいや、まず、これ聞かなきゃ。

「失礼ですが……何故、その装甲をつけてらっしゃるんですか?」


 オレの質問に、金属の塊が右手を元気よくあげて答える。

「発明家らしく見える為でーす!」


 はい?


「私、あんまり売れてない発明家なんです」

 ロボットアーマーの人が、明るく笑う。

「『個人発明家』なんで、発表の場が少ないし、いいモノ作っても市販ルートになかなか乗せてもらえないんです。製品の性能より、『安心』を買いたがる人が多いですから。大学やら機械工房のブランド物ばかり、もてはやされるんですよねー」

 

「だから、発明品を着て歩きなさいって、助言してさしあげたのよ」

 うふふとイザベルさんが笑う。

「歩くだけで無料の宣伝になるし、興味を持ってもらったらその場で発明品の説明も販売もできるでしょ? 顧客増加間違いなしだもの」

 

「おかげさまで、何処へ行っても注目の的! 発明品もちょこちょこ売れるようになってきました! ほんと、イザベルさんのおかげです、ありがとうございます!」

「いえいえ」


 客は増えたのかもしれない……

 だが、何か大切なものを失ったのでは……?


「勇者様、私の発明品はどれも最高です!」

 ロボットアーマーの人が、作り物の手をぐっと握りしめる。

「私、お買い得ですよ? あなたの冒険に私と私の発明品を加えてみませんか?」


「彼女、戦闘力は高いです」と、セリア。

「先ほど、中庭でデモンストレーションを見せてもらいました。自分の身長よりも大きな岩を、右手の一撃で粉砕していましたから」


「うん。あたしより強いー」

 ビキニ戦士が、たっぷんたっぷんの胸を揺らしながら言う。

「ほんとだよー 戦士の目はねー 相手の力をみきわめられるんだからー こん中だと、サイキョーだよ、その子」


 そうなのか……だが、仲間にしたくとも、萌えられない事には……


「勇者様! 私を是非、仲間にしてください!」

 ロボットアーマーの人が、オレに迫って来る。

「私の発明品は、旧来の常識をくつがえす革新的なモノばかり! 優秀さがを広まれば、絶対、スポンサーがつきます! 魔王戦で私の発明品を使わせてください! 『もと勇者の仲間』ってブランドが欲しいんです! お願いします!」


 正直者の、野心家なんだな。

 まあ、魔王戦で役に立ってくれるんなら利用されるんでも、かまわない。


 けど、脱いで顔と体を見せてもらわん事には、どうしようもない。ロボットアーマーに萌える趣味は無い。


「あの、ルネさん、悪いんだけど」と、オレがそこまで言いかけたら、機械の塊は更に迫って来た。


「悪い? 悪いだなんて、そんな! 駄目です、断っちゃいけません! 私の発明、使わないと後悔しますよ!」

「いや、そうじゃなくって、顔を」


「待って、今、このアーマーの優秀さを披露します! 突然の雨! 困ったなーという時にはこれです! 傘変形! 左手のマニピュレーターの先端が巨大なコウモリ傘に!」

「あ、いえ、あの」


「駄目? 駄目ですか! じゃあ、次! 眠れなくって、困ったなーという夜にはこれです! 子守唄歌唱! このアーマーには、歌唱機能が搭載されてます。子守唄はなんと三十六種類!」

「いや、そうじゃなくって」


「ああああ、駄目? これでも、駄目なんですか? それじゃとっておき! おなかがすいた、困ったなーという時にはこれです! 自動調理機能! 食料収納ポケットから素材をランダムに選び胸部のレンジで……」


 興奮のあまりオレに詰め寄りすぎ、ロボット・アーマーの人がバランスを崩す。オレの方へと倒れてくる。


 支えてあげようとしたのだが……


「だめー!」


 すごい勢いでロボの両腕に突き飛ばされ、オレはまっすぐ背後の壁に激突した。


 痛みにうめきながらオレは、ガッシャーンと凄まじい音があがるのを耳にし、ロボットアーマーがうつぶせに床にめりこむのを目にしていた。


「このアーマー、乳牛より重いんです! 生身で支えるのは無理です! 死にますよ!」

 床に突っ伏したロボを見つつ、ジョゼの手を借りて立ち上がったオレ。


 ロボットアーマーがプシューと煙を吐き、ロケットエンジン付き背面が開く。


「すみません、勇者様、お怪我はありませんか?」

 ロボットアーマーの中からむくっと体を起こしたのは、白くてややぽっちゃりした体だった。身につけているのは、タンクトップにパンツのみ。腰のくびれがほとんどない、幼く見える体型だが、胸とお尻はそれなりに大きくて……


 そして、彼女はフルヘルメットも外す。

 さらり流れ出た黒髪は、肩の所で切り揃えられている。アンバー(琥珀色)の瞳は大きく、頬はふっくらとしている、やわらかそうな唇をしていた。


 とても、かわいかった……



 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと九十二〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



「仲間にできたか……」

 お師匠様が息を吐く。


「私、仲間になれたんです?」

 発明家ルネさんは目を大きく見開き、それからガバッ! と、オレに抱きついてきた。


「ありがとーございます、勇者様! 私、がんばります! 決戦日まで、めいっぱい発明します! 勇者様とみなさんの助けとなれるように!」


 おおおお!

 ルネさん、そんな下着姿で!

 大胆な!


 ああああ…… 



 オレの至福の時は、じきに終わった。

『鼻の下を伸ばすな! エッチ!』と、ツンデレ魔術師に殴られたからだ。

 なんとなく、ジョゼも機嫌が悪いような?


「旅の準備を整える時間をください」とルネさん。

「明日の朝にはみなさんと合流します。宿泊先はオランジュ伯爵家ですか、了解でーす」

 ロケットエンジンで飛んで来るって言っている。空を飛べるのかー すごいなあ、ロボットアーマー。



 魔王が目覚めるのは、九十五日後だ。

 今日はリーズとルネさんを仲間にした。これから更に一人増える予定。順調、順調♪



* * * * *



『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き


●女性プロフィール(№008)

名前 ルネ

所属世界   勇者世界

種族     人間

職業     発明家

特徴     フル・ロボットアーマー装着。

       イザベルさんの顧客の一人。

       どうすれば発明品が売れるか相談し、

       発明品を着て歩けと勧められる。

       いつでも発明品を紹介できるよう、

       持ち歩いている。思いつきで作るタイプ。

       無駄なオプションをつけるのが好き。

       陽気・おしゃべり・発明おたく。 

       オレ達の為に発明をしてくれるらしい。

戦闘方法   ロボットアーマー

年齢    『年? あれ? 幾つだったっけ?』

容姿     おかっぱの黒髪、アンバー(琥珀色)の瞳。

       童顔。日焼けしてない。ややぽっちゃり。

       腰のくびれはあんまない。

       幼児体型だけど、胸とお尻はけっこうある。

口癖    『困ったなーという時にはこれです!』

      『さすが××様。お目が、高い!』

好きなもの  発明

嫌いなもの (資金難で)発明できなくなる事。

勇者に一言 『勇者様! 私、がんばります!』

イラスト↓

https://kakuyomu.jp/users/matsumiya_hoshi/news/16818093086266385610

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