2 あなたにぴったりの開運グッズ

「え? いいんですか?」


「いいのよ……これから、あなたの最悪な星とそれに巻き込まれる星々を眺められるのですもの。見物料の前払いってとこね」


 オレは礼を言って、珊瑚の護符つきペンダントを首にかけた。いい人だなあ、イザベルさん、タダにしてくれるなんて。


「お近づきのしるしに、みなさんにも」

 うふふと笑いながら、イザベルさんがアクセサリーを配る。


 アナベラには、金運+名声+仕事運UP用のルチルクォーツ(金紅石入り水晶)のブレスレット。


 サラには、『こつこつと努力している人』用の宝石だそうでガーネットの指輪。


 ジョゼには『勇気を高める』メノウのブローチ。


 お師匠様には、幾層にもファントムが重なったファントムクリスタル(山入り水晶・幻想水晶)付きペンダント。

「ファントムクリスタルは、過去の思い出と未来への道標を示します。生まれ変わる力を導くとも言われています」

 お師匠様は、受け取ったペンダントをためつすがめつ見つめていた。


「そして、そこのあなたには」

「いりません!」セリアの答えは早かった。


「悪徳霊感商法の常套手段じゃないですか。最初は無料だと物品を渡し、信頼を得てから高額な商品を売りつける。私はそんな愚かな手管にのりません」


「あら、手管だと思うのでしたら、貰うだけ貰って、その後は無視すればよろしいのに」

 イザベルさんは、楽しそうにうふふと笑う。

「それとも、怖い? 一度でも、占い師から物を貰うと、冷静な判断ができなくなってしまうのかしら?」

「そんな事はありません! 私はいつでも冷静です!」


「なら、受け取って。勇者仲間へのプレゼント……護符としてお渡ししてるのだから」


 イザベルさんはセリアの左の手首に、紫の石のブレスレットを通した。


「アメジスト……高貴な紫の石、才能を引き出すと言われているわ。知的なあなたに、ぴったりでしょ?」


 うさんくさそうにブレスレットを見つめるセリア。

 イザベルさんは、うふふと笑う。


「そのブレスレットを持っていれば、一年以内に、あなたに恋人が現れるわ」


「な」

 セリアは、顔を真っ赤にした。


「アメジストは、恋愛運をアップさせるのよ」


「いりません、こんなもの!」

 セリアがブレスレットをテーブルの上にたたきつけようとした時、

「捨てたら、生涯、結婚できなくなるわよ」との鋭い一言が。


 セリアの動きが、ぴたっと止まる。


 イザベルさんが、とてもとても優しそうに微笑んだ。

「一年間、試しに持ってみて。恋人が現れなかったら、『やっぱり占いなんて嘘っぱちだわ』って捨てればいいだけの事でしょ? 占いの信憑性を確かめる実験だと思って」


「い、一年以内に、私に恋人ができたとしても、断じてブレスレットのせいではありません。そういう未来だったというだけです」

 占い師の言葉なんか、絶対、信じません! と、言いながら、セリアはブレスレットをアカデミックドレスのポケットにしまっていた。捨てるのはやめたようだ。



「勇者さま……もう一人のお仲間……聖女さまとの合流は……明後日になさい」

 突然、まじめな顔となり、イザベルさんが水晶玉を撫で始める。


「今日、明日、都にとどまっていないと……あなた、星を逃すわ……仲間にすべき人達に出会いそこねる……」

 すごい、さすが国一番の占い師……マリーちゃんがよそにいる事も、明日には合流するはずだった事も知っているのか。


「星はニ……或いは三、あなた次第で四にも五にもなる……」

 おぉぉ! 仲間が一気に二人から五人も増える? そりゃすごい!

 だけど、あのかわいいマリーちゃんを一人にしておくのは心配だ。


「マリーはデュラフォア領荘園に、先程、到着したようだ」

 お師匠様は心話が使える。今、マリーちゃんと心で会話しているそうだ。

「明日は悪霊についての情報を現地で集めるだけだと、言っている……明後日の合流了解しました、心強いお味方を探してください……だそうだ」


 マリーちゃん……ああ、やっぱ、いい子だなあ……


「では、決まりね」

 うふふとイザベルさんが笑う。

「勇者さま、みなさま、明日の昼前にもう一度、この店に馬車でいらして。お仲間になるべき方、二人の所へ、ご案内します」


 すごい、さすが国一番の占い師……オレの仲間が何処にいるのかもわかるのか……


「とてもとてもお美しくて有能で、心の弱い方達なんです。私、お二人からた〜っぷりと稼がせてもらいましたわ」


 へ?


「顧客を紹介するだけじゃないですか! 占いでも何でもないです!」

 セリアが声を張り上げる。

「勇者様、あなた、騙されてます!」


 騙されている……?

 いやいや、ないでしょ。イザベルさん、ペンダントをタダでくれた、いい人だし。


* * * * *


 一日でセリアとイザベルさんの二人を仲間にできた。

 明日は、二人から五人、増えるようだ。


 魔王が目覚めるのは、九十六日後。仲間集めは順調だ!

 コーラルのペンダントは装備した! オレ、きっと長生きできる! 


* * * * *



『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き


●女性プロフィール(№006)

名前 イザベル

所属世界   勇者世界

種族     人間

職業     占い師

特徴     妖しい微笑み、お色気、商売上手。

       国一番の占い師。

       セリアは詐欺師だと言っている。

       俺の運命が最低なんで、気にいったそうだ。

       仲間に宝石を配ってくれた、いい人だ。

戦闘方法   不明・未来予知……とか?

年齢    『うふふ、本当に知りたいの……?』

容姿     ダークブルネットのくせっ毛、

       ダークグリーンの瞳。褐色の肌。爆乳。

       ヘッドスカーフ+胸元が開いたドレス+

       ベスト+コインフリンジが付いたサッシュ。

口癖    『うふふ』『水晶が私にそう告げたの』

好きなもの  迷える人々・特に信じやすい人が大好き。

嫌いなもの  なし(みんな迷い人だから可愛い、らしい)

勇者に一言 『あなた、死ぬわよ』

イラスト↓

https://kakuyomu.jp/users/matsumiya_hoshi/news/16818093086235550108


タイトルの「レスバトル」ってのは……異世界人が持ち込んだ、ということにしておきましょう!

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