凄腕巨乳占い師【イザベル】

1 目を開けたらそこには……

 イザベルさんの占いの館には、馬車で向かった。


 お師匠様は過去に訪れた事がある場所か、知人の現在地にしか、移動魔法で跳べない。


 馬車に揺られてのんびりと移動も、十年ぶりの事だ。夜風も涼しいし、ちょっと楽しく思えた。

 しかし……


「何故、占い師に会いに行くのです?」

 行き先を知ったセリアが、妙にからんでくる。


「勇者様……占い・俗信・迷信・ジンクスの類いを本気で信じていらっしゃるのですか? それほど愚かな方だったのですか?」


「セリアさん、イザベルさんは国一番の占い師なんです、その辺のエセ占い師とは違いますよ」と、サラ。

「そーそー イザベルさんのおかげで、あたし、勇者さまの仲間になれたんだよー このビキニアーマー作れって助言してもらったんだー」と、アナベラ。


「その破廉恥な格好は、女占い師に騙されたせいだったんですね!」

 セリアが、声を荒げる。

「お気の毒に! 賠償請求をなさるのなら、良い弁護士を紹介しますよ?」

「ばいしょーせーきゅー?」

 アナベラは、難しい言葉が理解できないようだ。


「お教えしましょう。占い・俗信・迷信・ジンクスの大半は、確かな根拠が無いものなのです。特に占いはいけません。あれは霊感商法の一種です」

「ちょっと、まっ……」反論しようとしたサラの口を、セリアは凄まじいトークで押さえ込む。

「占いは、話術による詐欺なのです。人の不幸を巧妙に聞き出し、甘い言葉を囁いたり、もっともらしい嘘を並べ立て、『もっと悪いことが起きますよ』などと不安を煽り、二度、三度と客に足を運ばせ、更には、法外な値段で妖しげな霊感商品を売りつけるのです。断じて信じてはいけません!」

 それからセリアは、切ったカードやダイスの目を調整する方法を延々と説明してくれた。


 昔、占い詐欺にあったのかねえ。


 オレ、外に行く時は強制的に目隠しさせられるから、馬車ん中でも目隠ししてるけど……

 耳栓も欲しいわ、こりゃ……



 ジョゼに手を引かれ、しばらく歩き、オレはどっかの建物に入った。


「いらっしゃぁ〜い、勇者さま、賢者さま。サラちゃんとアナベラさんもお久しぶり。うふふ、他のお嬢さん方も可愛らしいわ。いい趣味してるわね、勇者さま」


 魅力的なハスキーボイスだ。

 女占い師イザベルさんか。


 オレはジョゼに導かれるままに、椅子に腰かけた。


「おいでいただけて嬉しいわ、勇者さま……ずっと、あなたにお会いしたかったの……」

 前方からのセクシーな声に、ドキっとする。

 オレに会いたかった……?


「あなたの前に水晶玉があるの。もう少し顔を前へ……」

 言葉通りにする。 

「もっとよ……もっと、ぐっと……」

 オレの額に、あたたかな、くすぐったいような息がかかる。

「そう……それでいいの。素敵よ、勇者さま……」

 すぐそばから聞こえる甘いかすれ声に、ゾクリとした。

 心臓がドキドキする。

 喉が渇く……


「顔を下に向けて……水晶にはあなたの未来が映っているわ……」

 占いを始めたようだ。

「茨の道ね……魔王に勝利するのは、とても困難……でも、道はある……とても細いまがりくねった道だけれども……勝利に通じている道も……」

「おお!」

「その道を選ぶ方法……知りたい?」

「はい!」


 イザベルさんが、うふふと笑う。

「なら、ごらんなさい」


 サッと目の前の覆いが消えた。

 目隠しが取られたのだ。


 え?


 どど〜んと!

 凄いものが、目に飛び込んでくる。

 はちきれんばかりの巨乳、いや、爆乳がすぐ側に! 褐色の肌が実に色っぽい……胸元が大きく開いたドレスを着ているんだ。


 オレの目線が、あがる。


 薄明かりの中、目隠しを持ってひらひら振っているのは……

 すっごく綺麗な女性だった。

 意志の強そうな眉 まつげの長いダークグリーンの瞳、高い鼻、微笑を浮かべる真っ赤な唇。

 赤紫のヘッドスカーフを巻いた頭や、ダークブルネットの癖のある長髪、流浪の民風の衣装が、これ、又、何とも……



 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと九十四〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



「売り込みか……」

 お師匠様が、苦々しくつぶやく。


「私を仲間にしなければ、勇者さまの未来は閉ざされます。これが最善の道ですわ」

 うふふと、女占い師が笑う。

「よろしく。勇者さま、賢者さま、お仲間のみなさま。あなた方を、よりよい未来に導いてさしあげますわ」


「イザベルさんが仲間に?」

 サラとアナベラが『キャー』と黄色い声をあげて、手を取り合って喜び合う。


 しかし、

「何で、そんな女を仲間にしちゃったんです!」

 横から学者様が、かみついてきた。


「占い師ですよ、占い師! 言葉巧みに、悩んでいる者を騙す、最低な詐欺師ですよ!」

「そんな、いくら何でも失礼だよ、セリアさん」


「では、質問します。どういった意図で、占い師を仲間に加えたのでしょう?」


 う。


「魔王戦で、どのような戦いをしてもらうつもりなのです?」


 ぐ。


「戦闘力のない人間ばかりを味方にしたら、勝てませんよ? どうやって、魔王に総ダメージ1億を出すおつもりなのです?」


 ぐは。


 オレは目の前のテーブルに、つっぷした。


 ああああああ、オレ、ますます自爆魔法コースに近づいてしまったのか……


「うふふ、落ち込んじゃって、可愛い。あなたって本当に素敵だわ、勇者さま」


 テーブルの上の丸い大きな水晶玉をはさむ形で、イザベルさんと目が合った。


「こんな素晴らしい男性に出逢えて嬉しいわ……ときめいちゃう」


 え?


「……惚れちゃいそう」


 ほ、ほんと、ですか、おねえ様?


 あああああ、目が、ついつい、胸元に……

 素晴らしく大きな褐色の二つの山と谷間が……魅力的すぎて……


 赤く厚い唇をほんのりと開いて、イザベルさんが微笑む。


「あなた、死ぬわよ」


 は?


「まちがいないわ」

 イザベルさんは、丸い水晶を撫でている。


「水晶が私にそう告げたの。このままではあなた、早ければ三日後、かなりな確率で九十六日後に死亡する。一年後にはあの世にいるわね」


 え……


「あなたの運気、最低最悪なのよ」

 うふふと楽しそうに、イザベルさんが笑う。


「これから先の未来は、不幸と女難のてんこもり。これでもかってぐらいに、女の人に責められるの。次から次へとよ。ああ、もう、ス・テ・キ。こんなド不幸な男、初めて。かわいそうすぎて、うっとりしちゃう……」


「オレ……死ぬんですか?」


「このままだと、ね」

 イザベルさんが、聖母のような笑みを浮かべる。

「でも、大丈夫よ、勇者さま。私があなたの運命を良い方向に導いてあげるわ」

「イザベルさん……」

「あなたを救う為に、私、仲間になったのよ……私を信じて……死から遠ざけてあげるわ……」

「本当ですか!」

「本当よ」

 イザベルさんは優しく微笑みながら、テーブルの下から赤い物を取り出した。


「あなたの開運グッズはズバリこれ! コーラルの護符つきペンダント! 海の宝石と呼ばれる珊瑚は、災いからあなたを守り、運気をアップさせます。そして、何より」

「何より?」

「コーラルは『幸福と長寿』の象徴。身につけていれば、あなたの寿命が延びるでしょう」

「おおおお!」

「今でしたら、この素敵な護符つきペンダントがたったのニ万ゴールドのお価格で、更に勇者さま特典として、こちらのタイガーアイのパワーストーンを」


「おやめなさい! 霊感商法は許しません!」

 セリアが、バン! とテーブルを叩いた。


「人の弱みにつけこんで商売するなんて、人間として最低です! 恥を知りなさい!」


「冗談よ、冗談」

 うふふとイザベルさんが笑う。


「今日から仲間ですもの。そのペンダントはさし上げるわ、勇者さま」

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