勇者オタクなメガネっ子【セリア】

1 学者も大集合!

 オレとジョゼとアナベラ、それにお勉強道具を抱えたサラは、お師匠様の移動魔法で跳んだ。


 今日も、王城に来たらしい。


『らしい』って推測なのは、又しても目が見えないからだ……

 移動の際は、必ず目隠し。ちくしょ〜


 そして、シャルルの待つ小部屋へ……

 野郎がジョゼに近づかないよう、キッチリとガードしてやらねば。

 と、構えていたんだが、ジョゼの方をちらっと見はしたものの、奴さんの目は今日もアナベラに釘付けだった。ビキニアーマー恐るべし。


 今日、俺らが会う相手は、学者だ。


 勇者の仲間としてポピュラーなのは戦士、僧侶、魔術師なんだが、次いで多いのは学者だろう。


 学者と言っても、何でもOKなわけじゃない。

 宗教考古学の専門家に限られる。古代信仰の技法を知識として身につけた者だけが、勇者の仲間になれるのだ。


 古代信仰の技法は、魔法ではない。誰でも使える技だ。

 正しい知識をもって、正しい手順にのっとって、精確に行使すれば、ではあるが。

 会得するのに必要な知識量が非常に多い為、宗教考古学を専門に修めている『学者』でなければ、使えないと思っていい。


 しかし、専門職の技法だけあって、便利な技がいっぱいある。

 絶対防御、攻撃力倍増、敵の防御力低下、周囲への強制睡眠、治療、性質変換、などなど。


 問題は、今世の魔王戦では、一人一回しか攻撃できないことだ。


 仲間への強化技法も、間接的に魔王に与えるダメージに関わる。なので、仲間への技法であっても『魔王への攻撃』とカウントされかねないと、お師匠様は推測した。

 オレも、そう思う。つーか、お師匠様が、そー言ってるんだから、そうに決まってる。


 便利な技も、使用してもらえるのは一個だけ。

 と、なったら、どの技がいいか……お師匠様とよく相談して、オレはこの結論に達した。


「『先制攻撃の法』が使える学者が必要なんです。ご紹介ねがえますか、シャルル様」

 オレは、スケベ貴族に要求した。


『先制攻撃の法』とは、『敵に攻撃される前に、味方全員が必ず攻撃できる』技だ。

 開幕に使ってもらえば、オレら百人の攻撃が終わるまで魔王は何もできないってわけだ。


 こちらが一方的に攻撃して1億ダメージを与えりゃ、オレらの勝利だ!


 一人あたり100万ダメージをノルマとしていただけに、直接ダメージを出せない仲間を抱えるのは、痛い。

 だが、『先制攻撃の法』担当者は、どうあっても欲しい。絶対に必要だ。


 シャルルが、手元の書類を確認した。『先制攻撃の法』を行使できる学者は二十人いるそうだ。


 昨日と同じように、シャルルは順に学者を部屋に連れて来る。

 まったく昨日と一緒。

 バアさんばっかを連れて来る。


 ンな相手に、萌えるか、阿呆ぉ〜!

 

 そして、きっかり十人目に……

 彼女が入って来た。


 何つうか……

 キリッとした美人だ。


 胸元に白いスカーフをつけた濃紺のアカデミックドレス姿で、正方形の角帽を被っている。よく似合っていて知的だ。

 その上、小さな丸いフレームの、メガネ! メガネっ娘だ!


 赤みがかったライトブラウンの髪はひっつめだ。鼻はちょっとツンとしていて、眉はすずしげ、目はブラウン。ノーメイクなのに美人! ちょー美人!


 何々派だ、専攻は何だと、彼女はよく通る声で説明してくれている。だが、右から左だ。オレは美しい学者にみとれていた……



 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと九十五〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。


「新たな仲間だな」と、お師匠様が言った。


 中等部の教科書を読んでいたサラが顔をあげ、『ふーん、又、若い美人なのね』と、嫌味を言う。

 ったりまえだろうが、バアさんに萌えるかよ。


「おめでとう、セリア」

 と、むっつりスケベのシャルルが、美人学者の肩に手をのせる。


 む?

 なに、その親しげな態度。 


「ありがとう。シャルル」


 お貴公子様がオレに、キザったらしく微笑みかける。

「ジャン君、セリアのこと、くれぐれもよろしく頼む。彼女はポワエルデュー侯爵家と親しい、ボーヴォワール伯爵家令嬢。私のまたいとこにあたる」


 またいとこ?

 知り合いに、美人学者がいるなら、真っ先に紹介しろよ!

 バアさんばっか連れてきやがって!


「百一代目勇者様、賢者様、仲間のみなさま、どうぞよろしくお願いします。セリアです」

 貴族令嬢らしい優雅な所作で、セリアさんがお辞儀をする。


「こちらこそ、よろしく」と、オレは挨拶を返した。

 ジョゼも彼女に負けないぐらい優雅な所作でお辞儀を返していたし、アナベラも『よろしくねー』とニコニコ笑顔だった。

 全員と挨拶を交わした後、セリアさんはオレらの背後に控えた。


 もう『学者』は仲間にできない。けど、一応、会うだけは会った。

 主婦とか学校の先生とか他のジョブで仲間にしといて、魔王戦では学者技を使ってもらう……なんて、手も使えるかもと思ったからだ。


 だが、残念ながら、萌える相手はいなかった。


 追加の仲間探しの間、セリアさんはずっと口を閉ざしていた。

 無口な女性なのかな? と、思ったんだが……

 

 それが誤解だったという事は、宿泊先のオランジュ伯爵家に戻ってからわかった。

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