2 ビキニアーマー!

 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと九十六〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



「新たな仲間はあの戦士か……」

 お師匠様が、あきれたようにつぶやき、


「えっち!」

 サラがオレを杖でぶん殴った。


 すっごく痛い!


 痛いけど……いい……


 男の理想のような女戦士に会えたのだ! 我が人生に悔いなし!


 んで、当の女戦士は、


「やったー!」

 バンザーイと両手をあげて、ぴょこぴょこと飛び跳ねていた。


 真っ赤な髪が揺れ、ぷるんぷるんと胸とお尻も揺れる。


 おぉぉぉぉぉ……


 至福! 絶景!


「この、スケベ!」


 サラが杖を振りまわす。


 痛ぇぇッ!


「何でオレだけなんだよ! シャルルも殴れよ!」

 スケベ貴公子が、慌ててハンカチで口元を隠した。が、鼻の下は伸びきってた。見逃さなかったぞ。


 ふっふっふ。

 スカしていても、男は男……


 やっぱ、ビキニアーマーは男の夢だよな!


 つーか、布地も鎧部分もほとんどないし!


 局部はしっかりガードされてるけど、ぷるるんな胸も、ぷりんぷりんなお尻も、ほぼ! 全部! 露出!


 あぁぁぁぁ……こんな夢のような装備している女戦士に初めて会った……

 こんなの着る人、本当に、いたんだ……


「アナベラでーす。こー見えても、十才からバリバリの傭兵やってきましたー めっちゃ強いでーす。期待していいよぉ」


 あぁぁぁぁ……頭も軽い……

 ステキだ……


 胸とお尻にばかり目がいってしまうが、か・な・りの美人だ。大きな緑の目で、コロコロ笑う笑顔がすっごく可愛い。真っ赤な髪は、ちょっぴり巻き毛で胸が隠れるぐらいの長さだ。


「そんな格好で……」

 ジョゼが心配そうに、赤毛の女戦士を見つめる。

「おなかを壊しませんか……?」


「壊したよー」

 あっけらかーんとアナベラが答える。

「でも、もう平気。おなか、丈夫になったみたい」

「まあ、おなかを鍛えてらっしゃるのですね……ご立派です……」と、ジョゼがズレた事を言う。


「あんた、何でそんな格好をしてるのよ?」

 鼻の頭を真っ赤に染めて、サラがアナベラに詰め寄る。

「鎧、つけなさいよ! 服、着なさいよ! 恥ずかしくないの?」


「恥ずかしかったよー」

 これ又、あっけらかーんと女戦士が答える。

「でも、もう慣れた。このカッコウ、注目の的になるから、いいんだよー」

「慣れるなッ!」と、サラが怒鳴る。相手が女性なんで、殴りはしなかったが。


「注目されたいのか?」と、お師匠様が尋ねると、

「うん」と、ビキニ戦士は頷いた。


「あたしね、強いんだよー お仕事、失敗したことないし。でもね、戦士ギルドのランクちっともあがらなかったのー 傭兵の仕事もね、面接でよく落とされるし、指名もあんま入らなかったの。困ってたのー」

 それは、君のオツムがちょっと足りなさそうだからだろう、たぶん。

 いや、ちょっとどころじゃないか。


「だからねー どーしたら売れっ子傭兵になれるか、有名な占い師さんに相談したんだー」

 占い師と聞いて、サラがぴくっと反応する。


「占い師さんが、ビキニアーマーを作ればいいって教えてくれたのー ここは勝負! って時に着れば、絶対、勝てるんだって。だから、あたし、なけなしの貯金をはたいて、このアーマーを特別注文(オーダーメイド)したんだー」

 えへへと女戦士アナベラが笑う。


「占い師さんの言った通りだー 今日さ、お城に、百人以上、女の人が集まったのに、あたしが優勝したんでしょー? ビキニアーマーのおかげだー も〜嬉しいー!」


 いや、優勝はしてないから。

 てか……ああああ、又、跳びはねちゃって、ぷるんぷるんじゃん!


「ねえ、相談した占い師って……もしかして、イザベルさん?」

 サラの問いに、アナベラが大きく頷く。

「うん、そーだよ。魔術師さんも、占い師さんのファン?」


「ファンというか……アタシが魔術師になったのも、イザベルさんの勧めで……」


 そう聞いてアナベラはニコ〜と笑うと、サラの手をとり、ぶんぶん振りまわした。『やったー! なかま、なかま♪』と。


「勇者さまー あのねー イザベルさんにたのまれてるのー 勇者さまの、仲間になれたらねー 次の日の夜にイザベルさんのお店に、みんなをつれてきてくださいって」


 へ?


「女占い師イザベルさんは、この国一の占い師なの」

 サラが説明する。

「失せモノ探しなんか百発百中だし、迷宮入り事件を解決してもいるわ。それから、その……こッ、恋のキューピットと、して、カップルを、成就……ううん! ともかく凄い占い師さんなのよ! 明日の夜、時間をあけてくれるって言うのなら会いに行きましょう!」


 明日の夜には、聖女マリーちゃんと合流したかったんだが。


「マリーとは心話で連絡がとれる」

 と、お師匠様。

「マリーが目的地に着くのは明日の夕方か夜だ。悪霊祓いは明後日以降だな」


「なら、急ぐ事ないわ! 合流は明後日にして、イザベルさんに会っとくべきよ! 勇者として、会って損はないと思う!」

 サラは目の色が変わっている。


 明日の夜、占い師に会う方向で話はまとまりそうだ。


「そろそろいいだろうか?」

 シャルルがオレに尋ねる。

「あと七十三人だ。次の方を連れて来たいのだが」


 え?


「けど、アナベラが仲間になったし……オレ、一ジョブにつき一人しか仲間にできないから」


「アナベラさんは、戦士として仲間になったのか? 傭兵としてか? 戦士と傭兵、両方の職業が埋まったのか?」


 う。


 そう聞かれても、オレにはさっぱり……


 救いを求めてお師匠様を見たけど、静かに頭を横に振られてしまった。

 お師匠様にもわからないのか〜〜〜〜


「それに、残っている女性の職業は、下級騎士、騎士見習、兵士、剣術師範、用心棒など多様だ。戦士や傭兵ばかりではない」


「………」


 結局、その日は夜中まで仲間選びが続いた。


 仲間にできたのはアナベラだけだったが……


 課題が終わらない〜〜〜〜と、サラは泣いていた。明日は仲間選びの場に『中等部の教科書を持ってって読む!』とも、わめいていた。


 まあ……ビキニ戦士が仲間にできたんだし、よしとしよう!


 魔王が目覚めるのは、九十七日後だ。

 明日も、萌えな仲間を増やすぞ〜! 


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き


●女性プロフィール(№004)


名前 アナベラ

所属世界   勇者世界

種族     人間

職業     ビキニ戦士・傭兵

特徴     ビキニアーマー! 露出狂ではない。

       明るくて、元気。あまり深く物事を考えない。

       腕っぷしは強いのに、

       傭兵として売れてなかった。

       占い師イザベルの勧めでビキニアーマーを作る。

       本当に着て歩くんだから、すげえよ。

       おなかは丈夫。

戦闘方法   両手剣

年齢    『あなたよりおねえさんよ』

容姿     見事な赤髪で目は緑。俺より背が高い。

       ぷるんぷるんの、ぷりんぷりん!

       アーマーは、大事な部分しか

       隠していない(ここ重要)。

口癖    『やったー』『えへへ』

好きなもの  注目されること

嫌いなもの  頭を使うこと

勇者に一言 『有名になりましょー!』

・イラスト↓

https://kakuyomu.jp/users/matsumiya_hoshi/news/16818093086224202545

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