ビキニの戦士、アナベラ

1 女戦士が大集合!

 オレとジョゼとサラは、お師匠様の移動魔法で跳んだ。


 今日は、王城に来たらしい。


『らしい』って推測なのは、周囲が見えないからだ。


 今日も、オレは目隠し勇者なのだ。


 ツンデレ魔術師にうっかり萌えちまって、オレは、天才魔術師シャルロットちゃんを逃している。

 ノー・モア・サラというわけで……お師匠様がオレに目隠しをするんだ。

 外へ行く時は、必ず、目隠し。

 そのへんの娘さんや、奥さんや、お子様に萌えないようにって配慮なわけだ。

 うざ。何もかんもサラのせいだ。


 つったら、

『ア、アタシの、せいじゃない! あ、あんたが、アタシに惚れたのが悪いんだからね!』と、ツンデレ魔術師にすごい勢いで殴られた。くそぉ……


 ジョゼに手をひかれるままに、廊下らしき場所を進む。

 辺りはシーンとしていて、オレらの靴音ばかりが響き渡る。人払いがされているんだろうか?

 王城に来たんで緊張したんだろう、ジョゼの手は汗ばんでいた。

 落ち着かせてやりたくって、ぎゅっと握りしめたら、ますます汗ばんでしまった。

 ジョゼ、内気だしなあ。がんばれ。


 しばらく歩いてから、背後で扉が閉まる音がした。どうやら部屋に入ったらしい。


「ジャン君、もう目隠しは不要だ。ここには我々しか居ない」

……どっかで聞いた声がした。


 目隠しをとると、予想通りそこには……

 金の巻き毛の、気障ったらしい衣装のキモ男が、スカしたポーズで立っていた。


 シャルルじゃねえか! 何でおまえが、ここに!


 お貴公子様は、まずお師匠様、つづいてジョゼ、次にサラに対してまで、片膝をついて右手の甲に接吻しやがった。


 おぃおぃおぃ!

 何で手を振りほどかないんだよ、サラ!


 お貴族様はオレに対しても、気さくな笑顔を向けてくださりやがった。


「国王陛下のご指示により、今日と明日、君の仲間探しに協力する」


 はぁ?


 何で?


「私はジョゼフィーヌ様の婚約者。オランジュ伯爵家と親しい間柄だからね。案内役に最適だろ?」


『へー、婚約者』と、小声でサラがジョゼに話しかける。『なかなか美男子じゃない』て……おまえ、男を見る眼が腐っているぞ!

 それに対して、ジョゼはぷるぷるとかぶりを振って必死に否定していた。


 そうだよな! 嫌だよな、ジョゼ!

 こ〜んなムカつく野郎、オレのかわいいジョゼにふさわしくない!

 おにーちゃんが守ってあげるからな!

 野郎が接近しようとしたら、間に入ってやる!


 キザ男に促されるままに、オレらは椅子に腰かけた。


 これからメイン武器が剣の女性を、一人づつこの部屋に連れて来るのだそうだ。

 家柄やら技量やら容姿やら年齢やら、さまざまな条件を考慮した上で、ふさわしいと思われる者から順に案内するとも言った。


 なのに……

 最初に入室して来たのは、男にしか見えない顔の、がっしりとした体型の女騎士。オバさんだった。

 萌えツボはピクリとも反応しない。

 次も似たような女性、その次も、横幅がたいへんある女騎士だった。


 若い美女はいねえのかよ。

 ゴツイのばっか連れてきやがって。


 だが、しばらく見てて、気づいた。

 鎧が徐々にショボくなっていく事に。

 三番目までの女騎士は、魔法金属の鎧をまとっていた。

 それから、部分的に魔法金属を使用した鎧となり、魔法金属と鋼の合成鎧となり、鋼の鎧となっていった。


 身分の高い女性、役職付きの者、戦士ギルドの最高格の戦士。そういった『実力者』から順番に紹介しているのだろう。

 容姿うんぬんとか言いやがったが、多分、それは、考慮してない。

 やっぱ、ムカつく、シャルル。


「高貴な女性には、ときめかないのかね?」

 二十人ほどと対面した後で、貴公子野郎はそんな事を尋ねていらっしゃった。 


 そこそこいいかなあと思った女騎士もいた。でも、全然キュンキュンこねえんだもん。一応、名前は控えといたけど。


「君はシャルロットを振ったし……庶民的な女性の方がいいのかもしれんな」


 ん?


 何で、天才魔術師シャルロットちゃんの名前がそこで?


 シャルルの野郎がいけすかない顔で、サラに微笑みかける。


「大輪の薔薇のように艶やかな我が妹シャルロットと異なり、サラさんは野に咲くデイジーのように可憐な方だ。庶民にも捨てがたい魅力があるようだ」


 妹……?

 

 いもうとぉ……?


 シャルロットちゃんがシャルルのぉ、いもうとぉ〜〜〜〜〜?


「………」


 はっ。


 一瞬、頭が真っ白になってしまった。


 シャルロットちゃんを仲間にしそこねて良かったのかもしれん……

 仲間にし損ねたのは、とても、とても、とっても残念だが、そう思う事にした。


 しばらく、どーでもいいようなムキムキの女性と対面し……


 それから、オレは……

 運命の女性に出会った……



 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


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