2 童顔の聖女

《あと九十七〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



「良し。マリーを仲間にできたな」

 お師匠様が、ぐっと拳を握る。

 オレがスカを掴まなかった事を喜んでいるようだ。顔はいつも通りの無表情だが。


 マリーちゃん、こ〜んなに可愛いのに優秀なのか〜


 一応、教会堂にいる全女性と対面した。

 が、オバさんやおバアさんの尼僧ばっかで萌えなかった。まあ、萌えても、多分、ジョブ被りで仲間には加えられなかったろうけど。


 それぞれ、マリーちゃんに『神のご加護がありますように』と祝福を与え、年配の修道尼達は教会堂を立ち去って行った。


 他の尼僧達が消えてから、マリーちゃんは改めてオレらに挨拶をした。

「はじめまして、みなさま〜 マリーと、申します〜 若輩ですが、少しでも、みなさまの、御力となれるよう、励みます〜 どうぞ、よろしく、お願い、いたしますわ〜」


 マリーちゃんがほんわかしてるんで、人見知りのジョゼも『こちらこそ……よろしく……お願いします……』と、挨拶ができた。

 だが、サラは怪訝そうな顔で、マリーちゃんを見つめていた。

「マリーさんって……もしかして、聖女マリー?」


 聖女マリー?


 マリーちゃんが、にっこりと微笑む。

 うぉ〜〜〜〜かわいい! 何つぅか、こぉ〜 守ってあげたい? みたいな。頼りないような、いとおしいような……ああ〜もう! そんな感じ!

「いたらない私を、そう呼んで、くださる方も、いらっしゃいます〜 称号に、恥じない、高みに至れるよう、修行に励んで、おります〜」


 サラがひきつった顔で、マリーちゃんに挨拶をする。


「もしかして、有名人?」

 マリーちゃんがお師匠様に挨拶してる間に、オレはサラに耳打ちした。

「そーよ、超有名人よ、知らないの?」

「知らねえよ、オレ、十年間、山にひきこもりだったんだから」

 あ、そっかって顔をしてから、サラはムスッとした顔で説明した。


「聖修道院の聖女の一人よ。悪霊祓いのエキスパートで、超一流の聖職者。神聖魔法と回復魔法が得意で、各地で悪霊を祓いまくってるらしいわ。まだ十八だけど、その功績を称えられて『聖女』の称号が冠されているの」


 十八?

 マリーちゃんが?

 嘘ぉ〜ん。十三〜四にしかみえない。

 ほわほわしてて、ぽよぽよしてて、子供みたいな感じなのに。


「聖修道院で育てられた、純粋培養の聖女様だもん。素直で純真で穢れを知らない乙女、って評判よ」


 超エリートなのか。


「勇者様、お願いが、ございます〜」

 幼子のような清らかな聖女様が、オレへと手を合わせる。

 うぉ〜〜〜〜〜かわいい!


「私、今、聖務の、途中、なのです〜 先に、使命を、果たしてきて、よろしい、でしょうか〜?」


 聖務?


「デュラフォア様の、荘園で、悪霊を祓う、聖務なのです〜 神様に、迷える霊を、救うことを、誓っているので、使命を、果たしたいのです〜 よろしい、でしょうか〜?」


 サラに尋ねると、デュラフォア園は、そんな遠くないとの事。馬車で二日の距離だそうだ。


「なら、オレらも一緒に」

 と、言いかけたら、

「駄目だ」

 と、お師匠様に止められた。


「おまえは、明日・明後日と王城へ行かねばならん。国王陛下がおまえの為に人集めをしてくださるのだ。仲間探しをしろ」


 む。


 しかし、こんなかわいい子を一人旅させるなんて……


「大丈夫です〜 悪霊祓いの、旅は、慣れて、ますから〜」

「でも……」

「勝手なことを、お願いして、すみませ〜ん。どうぞ、お許し、ください、勇者様〜」


 そんな……

 両手を合わせ、うるうる目で見つめられたら……

 嫌と言えないだろ、男として……


「お師匠様、仲間探しが終わったら、マリーちゃ……えっと、マリーさんと、合流できますか、移動魔法で?」

「その時、マリーの居る位置に跳ぶ事は可能だ」

 なら、問題ないな。


「わかりました、マリーさん、悪霊祓いに旅立ってください。この地での勇者の使命を終えたら、即、オレも合流します。一緒に悪霊を退治します。どうか、決して、無茶しないでください。あなたは、もう、オレの大事な仲間なんですから」

 ちょっと騎士っぽい仕草で、オレはマリーちゃんに迫った。


 マリーちゃんは、かわいらしく微笑み、

「ありがとう、ございます〜 勇者様が、お優しい方で、良かった、ですわ〜」

 と、ぽよぽよした声で言ってくれた。


 かッ、かわいい〜〜〜〜

 なごむ……


 マリーちゃんは、すぐにも悪霊祓いの旅に出発するのだそうだ。

「みなさまに、神の、ご加護が、あります、ように〜」



 マリーちゃんとお別れして、オレらはオランジュ伯爵家に戻った。

 まだ午後の陽がさしこむ居間で、くつろぎながら、気になってた事を聞いてみた。


「お師匠様とマリーさんは、どういう知りあいなんです?」


「神様仲間だ」


「は?」

 なに、それ?


「今世で神様を降ろせる女性は、私とマリーの二人だけなのだ。神様の紹介で知り合ったのだ」


 託宣もできるのか、マリーちゃん。ますます、すごい。


 ん、てことは……


 あのキャピキャピ女神様が、マリーちゃんに憑依するのか。


 無表情でクールビューティなお師匠様も、神様が宿ればキャピキャピになる。

 なら、あの清楚な尼僧姿のマリーちゃんも、キャピキャピになるわけで……


 きゃぴりん尼僧……


 それはそれで、いい……

 ちょっと萌えるかも……


 オレの左頬にグッと圧力がかかった。

 サラだ。

 右の拳をオレの頬に当てて、グリグリしやがる。


「なんか、エッチなこと、考えてるでしょ、あんた?」


 う。


「鼻の下のばしちゃってさ。ひっどぃマヌケ面してるわよ……やーらしーい」


 む。


 何、想像しようがオレの勝手じゃねえか、やかましいぞ、おまえ。


 と、そのまんま言ったら……

 ぶん殴られるな、うん。

 オレは、婉曲的サラ撃退技を使用した。


「おまえさ、勉強しなくて、大丈夫?」

 この技には、いかにも心配してます! って、態度と口調が重要だ。

 グッと、喉の奥で声をつまらせ、サラは

「そうね……あんたなんかの相手をしてる暇はなかったんだわ。部屋に戻るわね……」

 フラフラ〜と自分用の部屋へと戻って行った。三日で、中等部の教科書を、全部読まねばいけないらしい。九教科あるそうだ。頭にちゃんと入るのかねえ。


 ま、しかし……

 当分、この手でサラを黙らせられるな♪


「あ、あの……お兄さま……」

 ジョゼだ。うつむいて、もじもじしている。


「お、お暇でしたら、私と……」

 そこまで言って、更にうつむいてしまう。

 そのまま待っても、次の言葉がなかなか出てこない。

 今日の予定はもう、こなした。オレが暇だってわかってるだろうに。

 助け舟を出してやるか。

「暇だよ。何かする?」


 ジョゼが顔をあげる。

 パァァっと輝く笑顔が、かわいらしい。


「お手合わせを……」


 格闘稽古か。


「いいよ」

 十年間、魔法木偶人形しか相手がいなかったから、ジョゼの相手がつとまるのか不安だけど。

「手加減してくれよ」

「もちろんですわ……愛するお兄さまに、怪我などさせません……」


 オレはジョゼと中庭に向かった。


 ジョゼの動きは、半端なく速かった。

 ベルナ母さんのような一流の格闘家になったんだと、実感した。


 素人に毛が生えた程度のオレが相手じゃ物足りないだろうに、

「ジャンお兄さまと組み手だなんて……昔に戻ったみたい……」

 と、ジョゼは、ずっと、ご機嫌だった。

 つられて、オレも笑顔になった。

 そんな感じでその日は過ぎた。


 聖女マリーちゃん、なんか凄そうだよな。

 サラ|(ハズレ)の分は、これで帳消しか?

 だといいなあ。


 魔王が目覚めるのは、九十八日後。がんばろ〜 



* * * * *



・イラスト付きキャラクター紹介(マリー)

https://kakuyomu.jp/users/matsumiya_hoshi/news/16818093086220141657

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