2 真の天才魔術師
先生は授業を中断した。オレらの側にお師匠様が居たんで、敬意を表したようだ。知らなかったが、お師匠様のローブは賢者専用のモノらしい。髪と同じ白銀色。綺麗だとは思ってたが、特殊装備だったのか。
先生もガキどもも目を輝かせて、お師匠様に群がる。
あのぉ……
勇者はオレなんですけど……
無視ですか……?
オレとジョゼの前には、サラしか来てくれなかった。あとは、様子をうかがっているガキが数人。
サラがムスっとした顔で、オレを睨(にら)む。
「あんたが人里に出て来たって事は……魔王が現れたってわけね?」
勇者見習いとして家を出る時、オレはサラとも別れの挨拶を交わした。
『あんたが勇者だなんて、この世はもう終わりね』と、ぶすくれた顔でサラはオレを睨んだっけ。
『魔王が現れるまで、山ン中にこもるの? へぇ~ ま、あんたみたいなバカのお守り、あきてたし。せいせいするわ。期待してないけど、勇者なんだから、せいぜいがんばってみたら?』
憎まれ口をききながら、サラは目に涙をためていた。
よく覚えている……
「昨日、手紙を出したんです……」
ジョゼが小さな声でサラに言う。
「お兄様が魔王退治の旅を始めたって……召使に、手紙を持たせて……」
「ごめん、ジョゼ。それ、まだ見てないわ。ずっと寄宿舎住まいなんで、めったに家に帰んないのよ。約束通り知らせてくれたのね、ありがとう」
ジョゼがプルプルと首を横に振って、『いいんです』と、ほわっと微笑む。
サラもにっこりと笑い返す。昔と一緒で、ジョゼには優しいようだ。
「魔王の出現、知らないのか?」
と、尋ねると、サラが唇をとがらせた。
「あったりまえでしょ、バカねぇ。百日間、魔王は寝てるだけで、何も悪さをしないのよ。国のトップは、当分、事実を隠ぺいするでしょうよ。今、広めたところで、国民の不安を煽るだけだもん」
「なるほど」
サラが、ジロリとオレを見る。
「あいかわらず、バカね。ちょっと考えれば、子供だってわかるのに」
む。
一方的にバカバカけなされるのも面白くないんで、こっちから質問した。
「何で、ガキのクラスに混じってるんだよ?」
サラがグッと喉をつまらせ、鼻の辺りを赤くする。
「べ、べつに、どーだって、いいでしょ! あんたに関係ないし!」
なんだ、昔から変わってねーな。照れると鼻の頭のとこばっか赤くなるの。
「さ、最近、魔法の、魅力に、き、気づいただけよ! ちょっと、スタートが遅かったけど……アタシ、才能あるから! すぐにトップ・クラスに追いつくし!」
「おい、あんた」
と、さっきからオレをチラチラ見てたガキが近寄って来た。生意気そうな顔の、そばかすだらけの赤毛のガキだ。
「サラのおさななじみ?」
オレが口を開くよりも早くサラが口をはさむ。
「ちょっと、レジス、何を」
「っせぇな。サラはだまってろよ、オレはそこの男に聞いてるの」
十才ぐらいのガキに呼び捨てにされてるし、サラ。
「そうだ、オレはサラの幼馴染だ」
「ならさ、あんた」
レジスって呼ばれたガキは、オレをギン! と、睨みつけた。
「責任とれよ」
は?
「あんたのタメに、このバカ女、剣だ、格闘だってきて、今度は魔法だぜ。条件のいいお見合い話、ぜんぶ断ってさ。オジさんだって、もうカンカンなんだぜ」
へ?
よけいなことは言わないで! って叫ぶサラを、ガキどもが四人がかりで押さえつける。レジスって奴の手下か?
レジスは、サラのいとこなのだそうだ。
オレが勇者見習いとなってから、サラは……
ひたすら、体を鍛えてたそうだ。家業の手伝いも、花嫁修業も放りだし、剣や格闘を習い続け……
この春からは、魔術師学校に入ったのだそうだ。
普通六~十才で入学する学校に、十七にもなって入学したんだ。初等クラスで、う~んと年下のガキどもと混ざって勉強するとわかっていて。
それというのも……
「このバカ女、占い師に、魔法を習えってそそのかされたんだよ。『おさななじみを本気で助けたいのなら、魔術師になるしかない』って勧められたらしくってさ。それで、その気になって」
「やめて!」
サラが叫ぶ。
鼻のあたりを真っ赤にして。
わなわなと体を震わせ、泣きそうな顔でオレを睨みつける。
「ご、誤解しないで! あ、あんたの為じゃないから! 世界の平和の為だから! 世界の平和の為に、勇者の仲間になりたくて! そ、それで、がんばってきただけなんだから!」
真っ赤なお鼻のサラを見つめているうち……
オレのハートは、キュンキュンと鳴った……
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