第13話
「忘れてたよ、自分の誕生日なんて」
指輪を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「だろうと思った。そのくせ俺の誕生日はちゃんと覚えてるんだよな」
全く……なんて溜息をつく比呂に慌てて反論した。
「だって!比呂、研究ばっかりで自分の誕生日忘れてるから……。お祝いくらいしてあげたいじゃない。比呂が生まれてきてくれたから、出会うことができたんだもの。特別な日だよ、私にとって、他の何よりも……」
スッと伸びてきた比呂の掌が頬に触れた。
温かくて、優しい手。
「そうだよな。誕生日って特別なんだって、寧々が祝ってくれなかったら気付けなかった。それに、俺らお互いに自分のことを二の次にするっていう悪いクセがあるみたいだからさ……だから、これからもお互いの誕生日位には、お互いが忘れずにいて祝っていきたい」
「……え?」
思わず漏れた間抜けな声に、比呂は苦笑している。
「寧々、俺の次に鈍い」
自分を落とすところは比呂らしいって、なんとなくおかしくなった。
「比呂の次に……か。そうかも。だって、ずっと片想いしている気分だったんだもん。自惚れないように戒めてた。だから、ちゃんと聞かせて欲しいデス」
いくら鈍い私でも、なんとなく比呂の言いたいことは分かってきた。
ほんの数分前からの大逆転劇。
嬉しくて、つい我儘な本性が顔を出す。
だって本当に嬉しいの。
普段研究ばっかりの比呂の目には今私だけが映っていて、比呂が私のことばかり考えてくれているなんてとても貴重なことなんだもん。
誕生日のお祝いに、誕生石の指輪をプレゼントしてくれる理由なんて、そんなの、ねぇ、一つしかないよね?
「俺がこういうベタなことを嫌いだって知ってて言わすんだよな。……寧々って、たまに狡いよな」
なんて、心外な台詞。
でも、ここで譲ったり、折れたりしません!
今日は、私達にとって一生に一度の特別な日になるんだから。
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