第12話

スーツのポケットを探り、その大きな掌に包まれたものが、そっと私の前に差し出された。


「寧々の話、多分俺とは真逆の方向に向かってる気がするからさ、俺の話からさせて。さすがに此処まで準備してさ、計画実行前に振られるとか、救われないからさ」


「……比呂、ごめん、えっと、コレ、何?」


比呂の言葉もまともに聞けないまま、目の前の天鵞絨の小さなケースに目が釘付けになってしまった。


「……開けて見て?それは、受け取ってくれなくても寧々の為に選んだものだから、開けずに返されたら捨てるしかない」


私の為に、?


促されるままに、その小さなケースへと手を伸ばした。


スルリと天鵞絨独特の指の滑り。


昔から、この手触りが好きだった。


その手触りを楽しむように何度かケースを撫でてしまう。


「寧々、魔法のランプじゃないんだから、撫でてたって蓋は開かないよ」


比呂の呆れた声音に、ハッと我に返って、改めてケースを見つめ……そして蓋を開けた。


ケースの中に鎮座するのは、プラチナのリングだった。


8月の誕生石のペリドットが花弁を形取る。


「ちょっと早いけど……寧々、誕生日おめでとう」


「え、?あ、そっか……」


比呂のこと、仕事のこと、他にも頭を占めることは沢山あった。


だから、いつも自分のことは二の次だった。


誕生日、そっかぁ。


もう、24歳なんだ、私。

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