第9話

震える手をギュッと互い違いに握りしめる。


その手をふわりと温かい熱が包み込んだ。


研究室にこもりきりの、思い切りインドアな比呂の手は、思ったよりも骨太で大きくて、温かい。


「寧々、変わってないなぁ」


感慨深げに溜息を吐く比呂。


「変わったよ。変われるよう努力してきたよ?比呂を困らせない為に、比呂に嫌われないようにって……私は変わった……っくっ、」


堰き止めていた嗚咽が漏れ、慌てて口を噤んだ。


俯いて、比呂の大きな手をじっと見つめる。


「馬鹿だなぁ……寧々は。……それに、俺は寧々以上に大馬鹿だ」


比呂が馬鹿ならその辺の大人は皆んな馬鹿だと思う。


比呂ほど頭の良い人を私はそんなに知らないから。


「俺は寧々に甘えてたんだな。ずっと誤解してたよ。寧々に愛想尽かされても仕方ないって諦めてもいた。でも、会えばいつも笑顔で俺の話を聞いてくれて……」


「……比呂に会えて、嬉しかったからだよ」


そっと視線をあげれば、少し驚いた後フッと吹き出した比呂。


分かってる、今の私酷い顔だ。


涙と鼻水でグチャグチャだもん。


でもハンカチで拭くこともできない。比呂に手を握られて。


顔も拭きたい。でも、この手を離して欲しくもない。


こんな風に比呂のぬくもりを感じることができたのは、もしかしたら初めてかもしれないと、今心の底から感動してるから。


「なぁ、覚えてるか?」


突然の問いかけに首を傾げる。


比呂の言葉の意味は分からない。

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