第7話

「……怒ってるよな」


怒る?何に?


比呂に怒ることなんてない。


感謝しかないよ。私に夢を見せてくれた比呂に、どうして怒るなんて……。


「ずっと、放ったらかしにしてごめん」


「……」


「俺は、いつも勝手で。いい加減呆れられても仕方ないよな」


いつになく殊勝な態度の比呂に、急に不安が込み上げてくる。


別れを切り出す前の、常套句みたいな台詞を比呂が口にするなんて。


分かってるよ、比呂。


その後に続く言葉は、


『俺以外の奴と幸せになるんだぞ』って感じ?


そんな優しくて、甘い目で私を見ないで。


別れ話を切り出すタイミングを考えてるの?


そんな、器用な人じゃなかったはずでしょう?


嫌いなら、嫌い。


別れたいなら、別れたい。


そうはっきり口にできる人だったでしょう?


そんな貴方に、あの時の私なら縋って別れたくないと泣き喚いて……。


……お互い歳を重ねて、変わってしまったのだろうか?


変わってしまった貴方と、変わってしまった私とならどんな関係を築いていけるのだろう。


「寧々、聞いて欲しいことがある」


ゆっくりと口を開いた比呂の、見上げるところにあるその目は真っ直ぐに私を見ている。


1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒……、


あ……、逸らされてしまった。

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