文殻 2

一閃

第1話

小箱に文殻ぽつんとひとり

インクも薄く消えかけて

ひとりの時の長さを思いしる

懐かしい文字 よみがえる口癖

戻らぬふたりの時に想いをはせる

「文豪たちの恋文に触発された」

おどけながら手渡してくれた手紙

これだけは処分することもできずに 最後まで残った形ある思い出

「ひとりぼっちにして ごめんね」

思い出なんて優しい言葉ではごまかしきれない愛しさがこみあげ 文殻を抱きしめた

窓の向こうの夕焼け空に ぽつりと名前を声にしてみたら

応える声も聞こえず 淋しく響いて流れて 消えていった


文殻 ぽつんと ひとりぼっち

私も ぽつんと ひとりぼっち

空に ぽつんと 宵の明星


あの頃 愛の意味などわからないまま 幼い夢を流れ星に祈っていたね

叶わぬ夢は 甘い残り香のように

叶わぬ想いは 白い淡雪のように いつの間にか消えていったけど 真実ほんとうに あなたを想っていたから

消しきれないもの 消せずにいる事が確かにある

あの頃の想いや幸せを あの頃に置き去りにもできずに こうして 季節を越えて 幾度いくたびも泣いている

捨てられずにいる文殻のインクのように 想いのたけが薄れゆく時を待つことしかできずにいる


抱きしめた文殻が「カサッ」と泣いた

「それでもいいよ」と言うかのように

「そうだね」と文殻を小箱に戻す

そして 夜へと移ろいゆく空の下 また ひとりに戻るだけ


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文殻 2 一閃 @tdngai1

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