第22話

「……してない」


「今更嘘なんて吐くなよ」


「二股なんて、してない!」


「キスしたって言ったじゃねーか」


「キスはしたんじゃなくて、されたの!本村から結婚しようみたいなニュアンスの告白をされた。それは嘘じゃない……でも、OKなんてしてない」



病室は個室だったからよかったけど、考えてみたらこんな大きな声張り上げて、廊下で立ち聞きされてても不思議じゃない。


だけど、止められなかった。


今、思うことも伝えられずに離れたら、私と健太はただの同期にも戻れない。


そう思った。



「マジ、かよ」



大きく息を吐いて、ベッドに手をついた健太の、目の前に見える旋毛を見つめて私も安堵の息を漏らした。


誤解されたままは嫌だった。


もし、本当に健太が私の事を真面目に考えてくれていたのだとしたら……。


これ以上に幸せなことなんてない。



「健太、私ね、健太にずっと言いたかった」


「……?なにを?」



顔を上げた健太の顔は、情けない位に不安そうに見える。


叱られた子犬がご主人を見上げてご機嫌伺いしているみたいな?



思っていたよりも、彼の事を傷つけてしまっていたのだと思うと、こんな表情の彼を見ているのは心苦しい。


健太と付き合って、一度も彼に伝えていない言葉がある。


一生彼には伝えられないと思っていた言葉。


彼は、その言葉を喜んでくれるのだろうか?

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