第19話

夢の中で、健太の私を呼ぶ声が聞こえていた。


今まで聞いたことがない位、必死で余裕のない声だった。


夢なら、覚めないで欲しいと思ってしまった。それでも容赦なく眠りは妨げられる。


目が覚めた時、何故か自分は病院のベッドに寝かされていた。



「……健太?」



ベッド脇のパイプ椅子に座って、私が寝ている布団に突っ伏している健太の姿が見えた。


私の声が聞こえたのか、パッと体を起こして私を見下ろした健太と目が合う。


一瞬、何かを言いかけた彼は、小さく息を吐いて……そして私の名前を呼んだ。



「えと……」



病院のベッドに寝ているのは分かった。


でも、どうして自分がここにいるのかが分からなかった。



「貧血で倒れたんだよ。この飽食の時代に栄養失調って、お前飯食えって言っただろうが」



なんだかひどく疲れたような健太の声だった。


多分あの時傍にいたのは健太だから、この病院に運んでくれたのは彼なんだろう。


別れたのに、こんな風に迷惑をかけるなんて情けなかった。



「ごめん。もう大丈夫だから、健太は帰って」



もしかしたら今夜、他の彼女との約束があったのかもしれない。


ただの、元セフレの面倒をこれ以上見る義務は彼にはない。



「もう、香奈の「大丈夫」は信じない」



不機嫌な声音とは裏腹に、真剣な眼差しで健太は私の手をギュッと握りしめてきた。

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