第10話

「嘘つけ」


「え?」



本村は私から離れて、近くの椅子に座って、大きく息を吐いた。


床に座り込んだまま動けない私は、本村の顔をただ見上げているだけ。



「お前、入社したばかりの頃は、25歳位には結婚するって話してたじゃねーか。明日でその25歳になるんだろうが……そんな時に、不毛な恋愛なんかしてんじゃねーよ」


「そんなこと……」



忘れたわけじゃなかった。


入社したばかりの頃、チャラい上司の人から飲みに誘われた時、馬鹿真面目だった私は、その上司に言ったっけ。



『私、遊びの恋愛はしません。25歳には仕事のできる真面目な人と結婚するので』



今思えば、ガキでも言わないようなことだ。



「よく、覚えてるね」


「覚えてるわ、てか、忘れられるわけねーわ」


「いった本人は忘れかけてたわよ」



溜息が出る。


幼くて甘ったれた自分を、なぜか今すごく羨ましいと思ってしまった。



「忘れるかよ。柾田のその夢叶えるために必死に仕事頑張ってきた俺が、忘れるわけねーし」



さっきまで椅子に座って私を見下ろしていた本村が、再び目の前にまで近づいてきていた。



「なにを……」



何を言っているのだろうこの人は?


こんなのまるで……。



「聞いてんのか?俺、お前に告白してるんだけど」



遠まわしな告白は、それでも胸に重くのしかかってきた。

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