第8話

……え?


掠るように唇に触れた、人肌。


息をするのを忘れて、目の前で私をジッと見つめる本村の顔を凝視してしまった。


今、唇に、触れた?



「柾田……お前、昼にチョコラテ飲んだだろ?」


「え……」



本村の言葉に答えることもできずに、ただ茫然と彼の顔を見ていた。


後頭部に押し当てられた大きな手が、私を本村へと引き寄せる。


そして、再び目の前の唇が、私のそれに重なる。


唇を割って入ってきた、本村の舌を感じた瞬間、本村の胸を押して彼から離れようとした。


それを拒むように、後頭部に当てられた手が本村との距離を縮める。




「……んっ、やっ、」



唇の隙間から零れる吐息は、いとも簡単に本村に飲み込まれてしまった。


どうして?


なんで、本村がこんなこと。


信頼できる同期だった。


同期の中でも誰よりも優秀で仕事覚えも早くて、健太のように目立つタイプじゃなかったけれど、誰にでも公平で優しかった。


こんな、嫌がる人間に無理やりこんなことをする人ではなかったはずだ。



抵抗を続けた私から、ようやく離れた彼は自身の唇を舌でペロリと舐める。



「やめとけよ。あんな、女なら誰でもいい奴なんて」


「なにを……」



本村の言葉は、健太のことをさしているのだとすぐに分かった。

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