第38話

吐き捨てるように言ったその唇で、理央くんは私のそれに触れた。


啄ばむような小さなキスを何度も唇に落としていく。


「……羽奏は俺のものだ。敷島さんにも、誰にも渡さない」


「……理央くん」


「本当に俺から離れたいの?俺は本気だ。本当は金曜日の夜だけじゃなくて毎日だって会いたい。会社の奴らにだって、羽奏は俺のものだって言いたい。……なぁ、俺を選べよ」


「り、」


名前を呼びかけた唇は、優しく喰まれる。


滑るように入ってきた舌が、口内を味わうように動き回り、舌に絡みついてくる。


身動ぐ私の頭を包み込むように固定して、深く、もっと、と彼は際限なく求めてきた。


「……っ、」


息苦しさに頭を振れば、理央くんの唇は離れてくれたけれどそれも僅かなもので、再び深いキスをせがんできた。


どれくらいの間そんなキスをしていたのか、ようやく理央くんの唇から解放された時は、意識は既にドロドロに溶かされていて、息が上がってしまっていた。


「……返事、もらえないのか?」


返事?


一瞬なんのことか分からなかった。


「羽奏は……誰といたいの?」


そう問われてさっきの理央くんの呟きを思い出す。

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