第37話

恥ずかしくて、情けなくて、理央くんに見つめられていることが辛くなってきた。


「消えられたら、困る」


「恥ずかしい……自分が情け無いよ。理央くんだって呆れてるんでしょう?」


顔を逸らしたまま呟いた。


「……可愛いと思ってたよ。なんで、他人を演じているのかは分からなかったけれど、普段のあんたも、ベッドの中のあんたも、いつだって真摯な羽奏を見ているのは可愛いかった」


理央くんが、可愛いを連発するたび頬の熱が上昇していく。


「気付いていたなら、言ってくれればいいのに……意地悪だわ」


これじゃあ八つ当たりだと思うのに、言わずにはいられなかった。


「……意地悪なのはどっちだよ。会社では思い切り避けてくれたくせに。俺との関係を周りに知られたくないのかって、俺とのことは遊びなのかって、不安にもなる」


不安?理央くんが不安になってたっていうの?


「どうしてそんな……私なんて会社では目立たない、つまらない女なのに」


逸らしていた顔を戻して、ゆっくりと彼を見上げた。


「目立たない?よく言うよ。羽奏は気付いてないの?最近羽奏のことを『可愛い』って話してるやつがたくさんいるのに。他部でそんな話が出ていたから不安になって経理部に覗けば、敷島さんにちょっかい出されてるし」


「敷島さんは、違うよ……っていうか、理央くんの勘違いだよ。私はそんな、モテたりしないし……」


自分が可愛いと男性から思われるタイプではないことは、自分自身がよく分かってる。


はぁっ、


わざと大きい位に吐かれた溜息。


「全然分かってないし。無防備だから、ほんとムカつくよ。今までだって可愛いと思ってた。ずっと好きだった俺の欲目かもしれないけど。でも最近綺麗になったって言われてるのは……俺とのことがあってからだ。羽奏、最近色っぽくなった。それって俺のせいだろ?俺が羽奏を他の男の目にとまる女にしたってことだろ?」


理央くんはなにを言ってるんだろう。


……というか、私が気付いていないだけ?自分の変化に。


そんなの分かるわけない。


私はなにも変わっていないもの。


「俺が羽奏を綺麗にしたんだ。今更他の奴に横からかっ攫われてたまるかよ」

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