第36話

「でも……それは、私にじゃなくて……カナにでしょう?本当の私は貴方が知っている私じゃない。本当の私は地味で冴えなくて、つまらない……」


「さっきから何を言ってる?カナも羽奏もどっちも同じあんただろ?」


「⁉︎」


頭を殴られたみたいな衝撃が走った。


どういうこと?理央くんは、いつから私のことを知っていたの?


口をパクパクさせて混乱している私に、理央くんは不思議そうな顔で私を見下ろす。


「なに?もしかして本当に別人を演じてたとでもいうつもりか?」


「なに、それ。じゃあ、理央くんは私のことを山瀬羽奏だと、最初から知っていたの?」


驚きのあまり涙も引っ込んでしまった。


だって、そんな……嘘だ。


「知ってるもなにも、あの店で会ったのは……というか、あの日俺はカナ……羽奏のことが気になって、羽奏の後を追ったんだ」


「後を、追った?」



「あぁ。……誤解して欲しくないけど、あの日だけだからな。後を追ったのは」


「嘘……」


「だから当然だけど、あんたが山瀬羽奏だということも、うちの会社の経理部だということも、最初から全部知ってたよ」


「……消えたい」


今すぐ消えてしまいたい。


理央くんの好みになれるように、派手でクールな大人の女……そういう女を目指して演じていたのも全部知られていたなんて。

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